期間限定幼なじみ

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期間限定幼なじみ

 僕には冬にだけ現れる、期間限定の幼なじみがいる。その幼なじみは雪女だ。 「だいぶ暖かくなってきたね」  僕の隣を歩く雪美はそう口を開いた。僕はマフラーで口元を覆いながら、こう返す。 「そう?」  雪美は暖かいと言うけれど、僕にとってはまだ寒い。顔を上げるとまばらに雪が舞い、息を吐くと白く染まる。こんなにさむいのに、これを暖かいと言えるのは、やはり雪美が雪女だからに違いない。  雪美は僕の幼なじみであり、雪女でもある。初雪が降ったらその姿を現し、雪が溶けたらそれと同じように溶けていく。毎年、それを繰り返していた。 「今年の冬は暖かいよね」 「そうなの? やっぱり、地球温暖化の影響かな?」 「もう、嫌になっちゃう! この分でいくと、卒業式より前に雪溶けちゃうかな? あーあ、ハヤトと一緒に卒業式出たかったなぁ」  それは、僕も同じだ。でもそんな事を言うのは恥ずかしくて、そっぽを向いて「ふーん」とだけ返した。 「それに、ハヤトは卒業式終わったらすぐにあっちに行っちゃうんでしょ?」 「一応、その予定」 「お見送りもできないかも。その時はごめんね」 「仕方ないよ、雪美は雪女なんだし。それに、もう子供じゃないんだから。幼なじみに見送られるのは恥ずかしいよ」 「そうなんだけどさ、やっぱりお別れはちゃんとしたいじゃん」  冬が来るたびに、僕たちは一緒に過ごしていた。でも、それができるのは今年で終わり。中学を卒業したら本格的に雪女としてこの土地で根を下ろす雪美と違い、僕は県外の高校に進学することが決まっていた。卒業式が終わったらすぐに親戚のおばさんの家に引っ越しをする。次の冬が始まる時、僕はすぐに雪美に会うことはできない。それが僕にとって寂しくて仕方がないことだった。  山の入り口に着いたら、僕たちは手を振って別れる。慣れた様子で生茂る草木を掻き分けて山へ登っていく雪美の姿が見えなくなるまでそれを見つめていた。雪美の肌は雪のように白く透き通っているから、遠くに行ってしまうと紺色のセーラー服だけが歩いているようにも見える。  僕はずっと、雪美のことが好きだった。  その白い肌も、曲がった事が大嫌いなところも、触れたら冷たいところも、その全てが大好きだった。  僕と雪美は、冬が来るとずっと一緒にいた。雪美と僕のおばあちゃん同士の仲が良かったせいもあって、僕たちは幼い頃からよく遊んでいた。  雪美のことが好きになったきっかけは、今でも昨日のことのように思い出せる。まだ小学校にあがる前の冬のことだ。その頃の僕は泣き虫で、いつも同級生にいじめられては泣いていた。それがバレるのが恥ずかしくて誰にも話してはいなかったけれど、ある日、いじめられている場面を雪美に見られた。 「あんたたち! ハヤトになにしてるのよ!」  大きな声を出し、雪美は大股で歩み寄って僕をいじめっ子たちから庇った。ぎゅっと握られた雪美の手がわずかに震えていたのを、僕だけが知っていた。  いじめっ子たちはバツが悪くなったのか、何も言わずに立ち去っていった。雪美は振り返り、僕に向かって「もう!」と少し苛立ったように声を出した。 「男の子なんだから、メソメソしてたらだめじゃない!」 「だって……」 「だって、じゃない! ほら、家に帰ろう。送ってあげるから」  雪美は僕に向かって手を差し伸べる。僕はそれを握って、歩き出す雪美についていった。  雪美の手は、それはそれは冷たかった。まるで氷みたいだった。当たり前だ、雪美は雪女にんだから。けれど、僕の胸にじんわりと暖かいものが広がっていったのがわかった。これは、雪美のことが好きだという気持ちだ。僕にはそれがすぐにわかった。雪美の手をぎゅっと握ると、雪美は振り返ってニッコリと笑う。僕の顔は熱くなり、頬に落ちる雪はすぐに溶けていった。  その気持ちは、ずっと僕の中で秘めていた。けれど、この土地を離れる前にどうしても伝えたいと思っていた。  しかし、今日もチャンスに恵まれなかった。僕は少し肩を落として帰路に着く。      
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