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 新が遥斗と大和に出会ったのは大学に入学してすぐだった。  一番最初のガイダンスで偶然同じテーブルに座った三人はそれぞれが興味を持つ分野が同じ事もあって初対面にも関わらず思いのほか、話がはずんだ。 そのまま学食に一緒に向かい、そのまま一緒に単位取得の計画もたて、気が付けば連絡先をやり取りして一緒に講義に出るように遥斗を二人で囲い込んだ。  「へー。じゃ、新も大和も首都圏出身?すげー、都会人だ!……あ、だから二人とも一人暮らしなんだ」 「都会人、って……遥斗面白い」  新が寝坊をして遅刻しかけた話から、初めて三人のプライベートに踏み込んだ話になったのは入学して三週目のことだ。 新と大和を見る遥斗の瞳が心なしか二割増しでキラキラしてるのをみて大和がクスリと笑った。 この春大学生になったというのに、遥斗は大型犬の子犬の様な可愛さがあった。 あの初日ガイダンスの後。一緒に行った学食で、狼の様な『都会人』の女子達が遥斗に向けて涎を垂らしているのを見兼ねて同じテーブルに座って牽制をかけようとしたら大和も同じ事を思っていたらしい。いや、頭の湧いてる大和はガイダンスの時点で『こいつはヤベーわ……』と思っていたらしい。 「うん。そうだよ。遥斗も県外からだよね?一人暮らし?」  遥斗も県外から来たとは聞いていたが、コレを放し飼いにしたらあっという間に喰われるぞ?!というか、俺が喰っちまうかも……と内心ずっとハラハラしていた新に、パスタを口一杯に頬張っていた遥斗は水遊びの後の犬の様に顔を左右にブンブン振った。 「俺?俺は兄貴と一緒に暮らしてるよ。兄貴も学部は違うけどここに通ってるから、ついでって。兄貴にこの春から少し広めのアパートに引越してもらって、そこに転がり込んだんだ」 「へぇー。じゃ、ちょっとは寂しくないね」 兄の事を嬉しそうに話す遥斗に少しイラッとはしたが、これっぽっちも思ってもいない事を言いながら新は心の奥底からホッとした。遥斗の家族取り敢えずグッジョブ! 「え、一人暮らしってさみしいの?なんか自由気ままなイメージがあるんだけど」 その羨ましいって視線が可愛い。 こんな大型犬の子犬を飼いたい。 この見た目なので女も男も遠慮なく喰ってきた新だが、子犬もいけるとは思わなかった。 「一人暮らしって、思っていた以上に味気ないんだよねー」 「そうだな」 一人暮らしなんて危険な事に興味を持たせたくないから全然思ってない事を言えば、同類の癖に同調してくれる大和が遥斗の頭をガシガシと撫でている。眼鏡越しの眼差しは真面目そうに見えるが大和も今、新と同じ事を考えているのだろう。 モフりたい。子犬を連れ帰りたい、と。 「えー。俺からすると羨ましいんだけど。ほら、たまには一人になりたいときとかあるし」 「まぁ、遥斗の家族の心配もなんとなくわかるから、遥斗は兄ちゃんいるうちは仲良く二人で暮らしとけ」 「ん?……あ。えー、何、その子供扱いー!!」 なんでー!!と手足をバタバタさせながら文句を言う遥斗は可愛い。 高校のクラスには必ず居そうな位、一見地味で普通な容姿の遥斗は、一見地味に見える顔のそれぞれのパーツだってちゃんと整っていて綺麗に配置されている。たぶん雰囲気一つでガラッと変わる美形一歩手前だから普通にしていれば目立たないだけだ。正直、その辺の美少女より仕草や表情が豊かだから今は可愛いく見えている。 今の庇護欲をそそる大型犬の子犬並に周りを引っ掻き回す才能は、それっぽい服装や髪型、あとは色っぽい仕草や表情が入れば一気に男も女も引き寄せる魔性に変わっていくと新は思っている。 「え?だって俺達の中で一番ちっちゃいし」 何言ってんの?的にからかいながら言う大和も大概だ。 遥斗が可愛くて仕方ない。拉致か誘拐をしそうだ。したら止めてくれ。いや、見逃して。と、見た目の真面目さを裏切り、昼間っから目をギラつかせながら構内で話している口を押さえたのは両手両足の指では既に足りない回数だ。 「でも、一番食べるし!」 「食べるね」 遥斗、ちっちゃいのは否定しないんだね。 そして大和も食べる遥斗を鑑賞するのが好きだから、同意しつつ、自分の皿からおかずを何品か遥斗の皿に投げ込み餌付けしてる。 最近、遥斗は出会った頃より痩せてきたから新も気にはしていたので、一緒に唐揚を遥斗の残り少ないカレーの皿に投げ込んだ。 「ここの学食美味しいしね!……あ、水、おかわり貰ってくるね!……あっ!」  あっという間に食べ終わり立ち上がった遥斗の服の袖が椅子に引っかかっる。慌ただしいけど可愛いな、この腕の中に転がって来ないかな?と視線で遥斗の動きを追えば、ちらりと見えた遥斗の男にしては細い手首には内出血したのか青痣がくっきり一周付いていた。しかも両手首。 「……!!」 「なぁ、遥斗、その腕のあざ……」 思わず伸ばした手を遥斗は避けたが、大和もそれは気が付いたようで少し温度が低い声で見咎めた。 「な……なんでもないよ?」 「なんでもないわけないだろう?」 問い詰める大和の声が更に温度を下げていく。 そう言えば今日は少し暑いくらいなのに遥斗はTシャツの上に羽織った長袖のシャツを決して脱ごうとはしなかった。昨日は肌寒いくらいの中で脱いでいたのに、だ。 「あ、……引越しの時にぶつけちゃって」 「え?でも……昨日は無かっ……」 「あ!次の講義、実験あるから別棟だったよな?遅れるよ!早く早く!」 新の言葉をつづけさせないように、慌てて誤魔化そうとする遥斗に新は大和と目配せした。 話は後でゆっくり聞けばいい。  慌てて食器を返却口に持っていく遥斗の後を二人で追った。
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