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「やっぱ、大学だと実験設備も違っていいよなぁ」
講義後の後片付けを進んでやりたがった遥斗に目尻を下げた教授の視線は愛玩動物を見るそれだった。いや、講義を受けていたみんながそんな雰囲気だった。なので新も大和も丁度いいタイミング兼牽制と遥斗の後片付けに便乗した。
腕まくりを思い切りして器具を洗い終わり、自身の手を洗っていた遥斗の両手首にはやはり先程見かけた痣がくっきり見て取れる。
「……う、ん」
「どうしたの、新?……あっ!!」
気まずさの中、相槌を打って視線を遥斗の手首に向ければ、新の視線に気が付いた遥斗が顔色を青くする。
「なぁ、遥斗、この手首のあざ……」
遥斗を挟んで反対側にいた大和が、隠される前にしっかりとその腕を掴み指し示す。
「あ、……引越しの時にぶつけちゃって」
「でも、昨日は無かったよ?」
新の言葉に遥斗は見えない耳と尻尾をしゅんとさせた。取り敢えず手を拭かせ、講義室を出ると大和が静かに遥斗に聞いてきた。ちなみに先程大和が掴んだ遥斗の腕はまだ離されていない。
「遥斗は兄ちゃんと同居してんだっけ?」
大和の質問は新も昼休みにこの痣を見た瞬間思い当たっていた。
「う、うん。兄貴も学部は違うけどここに通ってるから」
一瞬の躊躇いにビンゴだとわかった。
「なぁ、コレ、縛られた跡だよな?」
「どう見てもそうだよね?」
二人で大和が掴んだ腕の方の痣を指差す。
「わかる?」
「うん」
「そうしか見えない」
しゅんとしたまま小首を傾げて聞いてくるが、二人とも容赦しない。
「んー。……見なかった事にできる?」
「バイト先でいじめられてる?」
「それとも、兄貴とかにに暴力振るわれてるのか?」
遥斗の質問は無視して核心の部分をグイグイ聞いていく。遥斗は押しに弱いから聞き出せる。
「バイト、はしてない。それに、暴力じゃない……違う。多分」
「多分?」
「兄貴達、優しいよ。……それに、気持ちイイ事を俺に優しく教えてくれて、疲れてバイトの時間が取れない俺にお小遣いまでくれるんだ」
見上げてきた遥斗の表情は少し暗くて……そして、今まで大学では見せた事の無い艶めきと妖しさが滲んでいた。
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