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「いつでも連絡してほしい」と、あの子は言った。
「いつでも話そう」と、私も返した。
だけど、共にカップケーキを食べる日は、恐らくもうほとんど来なくなる。
二度とない、とは流石に言いたくない。けれど、ほとんどないだろう。
私も彼女も、とっくの昔に別々の道を歩んでいたのだ。
──いや、もしかしたらはじめからそうだったのかもしれない。
ほんのひと時の間、並んで歩いたことがあるだけ。
その時間が何よりも大切だったという事実があるだけ。
そしてきっとそれで良いのだという、諦観とはすこし異なる予感があった。
私はこれからも、しばし彼女を忘れて日々を営む。
今まで通り行きつけのカフェでモーニングを頼み、コンクリートの上でパンプスを鳴らし、缶コーヒーを片手にデスクに向かう。たまに定時で切り上げられたら、その足で上野のナイトミュージアムと洒落込むのだ。
そこにあの子の影は一ミリたりとも存在しない。
──それでも、きっと毎年この日に思い出すのだろう。
こうして一人カップケーキを齧っては、今はすれ違うことさえなくなった親友を想い、彼女に注がれるさいわいを祈るのだろう。
私も彼女も筆不精だから、こんな時でさえきっとメッセージの一つも送りあわないかもしれない。
それでも良い。そんな淡白な距離感でも、良いのだ。
カップケーキ一つで互いを思い出す、そんな「特別」があって良いし、それが良い。
いつかまた、互いの歩みが交わるその日まで。
もしくは、また並んで歩くその日まで。
──その日が来ずとも、それはそれで。
最後の一口をためらわずに放り込む。しっとり甘じょっぱいケーキと、舌先に残るラズベリージャムの味に、頭がすっと冴えていくのが分かった。
これで帰り着くまでは頑張れる。帰り着いたらシャワーを浴びて床に就く、そしたら明日も頑張れる。
こうしてまた毎日を送ることができるのは、その陰に、あの子がくれた祝福があるから。
そして、あの子が送る日常の陰に──せめてこの日一日だけでも、私の捧げた祝福が、あの子にさいわいをもたらすようにと祈らずにはいられない。
互いを想う祈りがある──それだけできっと、私たちは友のままでいられるのだ。
すっかり渋くなったアールグレイを流し込み、席を立つ。
通りを叩くパンプスのヒールが、僅かに爽やかな音色を奏でていた。
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