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「ん。コレね、秘書課の先輩方からのアドバイス通りにデート仕様にしてみたんだけど。や、やっぱり私には……」
「思わず、──脱がせたくなる」
「──っ」
私はもはや、寿命を縮めに来ているのではなかろうか。
一つ目の赤信号で助手席側のヘッドレストに庵の手が掛けられる。その挙句、私の耳に指を絡めながらのこの台詞は反則である。
あなたの視線は変わらずフロントガラスを向いている。
ハンドルを操作しつつ、庵はたまに片手で私の髪を撫でる。そんな姿を横目でチラチラ見ては、桃色の溜め息しかでてこない私。
これは命がいくつあっても足りない、デンジャラスデート。要は、いろんな意味で命懸けだ。
「し、かし、何でも良いと言ったのにお前は……高いモノでもねだれば良かったろうが」
「高級なモノなんて私には勿体ないもん」
時に、本日のデートの経緯はこうである。
本当に欲しい庵はいただけないようなので、その代わりに私がおねだりしたものは、この土日──庵と二人きりで過ごすプライベートな時間。
そうだな、まずはドライブを楽しんで、次に、東京タワーより高い東京スカイツリーに登りたい。
展望台へのチケットはこのシーズン完全予約制のため、私たちを知ってる人はまずいないだろうし、だから人目なんて気にせずこんなこともできてしまうんだ。
「景色なんか見て何が楽しいんだ? しかし退屈だな……」
「退屈とか!! それ一緒に居る私に対してすごく失れ……んっ──」
武蔵=地上634mを間近に交わす、天国にほど近いキス。
好き……会話がキスに変わる瞬間。
好きなの……こうして庵にさり気なく奪われるの。
「~~~こんな昼間っからそんなとろけた顔をするなよ」
「ん、だって抑えられない……」
──私ね庵。この二日間で、お金では絶対に買えないモノが欲しいんだ。
あなたと過ごす時間の中で得られる温もりとか交わす吐息とか、分かち合う感情とか。
そして、この先いつ振り返っても胸が愛しくなれる思い出たちを……
──ください、どうか私に。
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