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今は先のことなんて考えたくない。1秒だって離れていたくない、コンマ1秒さえ惜しい。たった二日間で一生分のデートをしてやるんだから。
「──もう夕暮れか。飯、トマトとナス以外で何食いたい? あぁホテルのフレンチでも予約とるか」
「ん~フレンチも捨てがたいけど……。うん! 私が作る、庵んちで」
そうは意気込んでも、このデートに懸けていたのは私だけだったのだろうか。車が夜道を駆け抜ける中、庵は「ウチ」を出した途端イマイチつれない表情をする。
「外で食った方が早いし楽だろうが。ウチはナシだ」
理由はきっと私を家に上げたくないから。もしもの衝動があったら困るからで、それは十分理解しているつもりだ。
それでも、夜中には帰らなければいけないシンデレラなんて真っ平ごめんだ、時間の限り普通のカップルがしていることをたくさん経験したい。
夢にも見れない庵との結婚ごっこは、もっとしたい。
──叶えてくれませんか、最後でささやかなお願いを。
「こう見えてもハンバーグだけは得意なの。デミグラスソースも一から作るよ! あと、添い寝してくれればそれで私満足だから。ね?」
「ハンバーグ……大好物だ……いや待て。しかも泊まる気かお前!?」
「デキる相棒にご褒美くれるんでしょう?」
「~~~拷問も良いとこだな……」
そうして押しに押し切った結果、なんとか庵を負かしたのだった。
スーパーの買い物かごも買い物袋も庵はさり気なく持ってくれた。部屋で調理を始めると、暇を持て余している庵がつまみ食いをしに来るもので、小さな喧嘩をした。
マヨネーズが隠し味の私ご自慢のハンバーグは、「お袋の味がする」と言いながら綺麗に食べ尽くしてくれた。
ところが食事が終わるとそそくさとソファに掛け、それからと言うもの庵はずっと一人で黄昏ている。つまりはイチャイチャもラブラブもしてもらえそうにない。
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