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触れそうな箇所は唇だけで、突き飛ばすことも可能な両手は自由である。なのにできないのだ。理不尽ばかりを押し付けるあなたの、いやらしさの欠片も無い辛く寂しそうな瞳を見てしまうと。
「私を第一秘書にしたり、こんな風に迫ったりするのはなぜ? 『惚れるな』ってことは好きとかそうゆう感情はなさそうだし。あぁ、溜まってるの?」
「アーホーか、俺の問いそっちのけで質問ばっかだなお前は」
──そんなこと言ったってあなた、相当得体が知れませんよ!?
「一つだけ教えてやるとすれば、お前の予想は全てハズレ」
ようやっと差し出したものは、答えには不十分過ぎる台詞だった。輪をかけて誤魔化すかの如く軽く触れ合った唇。その間にもあなた好みのスーツは着々と剥がされていっていた。
「そろそろ欲しいか?」
「……は、い……」
──ねぇ、今日はどこまでしちゃうの?
お部屋に入るまでの心意気はどこへいってしまったのだろう。口が勝手に動いてしまったと言うのが実際のところ。
どう考えてもこれはセフレ感覚、感情抜きの行為。1回位どうってことない。むしろ葵以外の男を知らない私に経験値をくれるまたとないチャンスが転がり込んだとさえ思えた。
それ程に、私の持つセックス観は低レベルのものだったのである。
だからか脱力した身を任せていた時、瞑った瞼の先に見えたものは、ただ、ただ感情友達への罪悪感だった。
「やっぱり……だめ──!!」
この人は萌の好きな人。本部長と他の女がこんなことしていたら大切な萌が悲しむ、つまり拒む理由にやっと気づいたのだ。
ところが本部長は案外あっさり私から手を引いてくれて、ソファを離れては仕方なしに自分で珈琲を淹れに行く。
「ダメって? どこら辺が?」
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