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<12>
ーーー日産のホワイトパール。
何度も助手席に乗せてもらった、見慣れた色の乗用車が林道へと出て行く。
テールランプが見えなくなる所まで見送って、『彼女』は木陰から姿を現した。
「ーーーはぁ」
彼のツイッターアカウントは知っていて、こっそり様子は伺っていた。
サンカヨウを見る為にこの山に行くつもりだと知った時には、頭を抱えたものだ。
確かにウイルスをうつす心配はない。しかし、登山の最中に発症したらどうするのだ。
実際には、全然違う理由で遭難しかけていたわけだが。
わたしが渡しておいたお守りは、ちゃんと効力を発揮してくれたようだ。
「……戻ったか」
山道の入り口まで歩み寄った時、暗がりから声が聞こえた。
「お久しぶりです、大智明権現さま」
『あの青年は無事に帰ったか』
「はい。ーーー彼を守ってくださり、ありがとうございました」
『お前の想いの詰まった勝守を持っていてはな』
やむを得まいよ。
小さく呟いた相手の姿は、見えない。
「ちなみに、助けたのは私だけではないよ。道に迷うたあれを案内してくれたのは『陛下』だ」
「……後醍醐天皇さまが?」
『あの御方も同じく、今の世相を憂いておられる。いつの世も民草が疫病で苦しむ姿は見たくないものよ』
「そうでしたか」
『ーーー人間の世界では、うまくやっていけているか?』
「何とか馴染んでいます。……ウイルスで弱っている彼に会ったら命を吸い取ってしまいそうで、避けていましたが」
『お前を冷たい女だと思っていたと聞いて、少し焦ったぞ。だが最後はちゃんと温かい心を持っていると、感謝して帰っていった』
一泊置いて。
山の守り神はこちらを、見えない視線で真っ直ぐに見据える。
一際明るい月光が、わたしの姿を照らし出した。
先ほどまでマフラーを巻き、ダッフルコートを着ていた姿はいつの間にか変わっている。
白い和服に、白銀の髪。
『……ずっと憧れていた人間の世界で、お前が幸せになれることを祈っているよ。
雪女』
「はい。頑張ります」
ーーーこの大山には、様々な神と伝説が存在する。
月光が雲に遮られ、わたしたちの姿は宵闇に溶けた。
やがて、何も見えなくなった。
<終>
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