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「……おかしいな」 昨夜降った雨で山は湿気に満ちていたが、目的地までは辿り着いたはず。 だが、お目当てのサンカヨウが一向に見つからない。 「この辺りに群生地があるはずだけど」 スクショしておいたスマホの画面を見る。 地図とコンパスアプリで現在地を照らし合わせてみても、間違いないはずなのに。 「くそ、せっかく来たってのに」 ーーー白状しよう。 しばらく前から、左足首と手首が痛み始めていた。さっき転んだ時に捻ったのだろう。 ……一人登山での怪我はまずい。助けを呼ぼうにも人がいない。 麓の観光地まではともかく、高い所に登れば圏外が当たり前。 不安になり、もう一度スマホの画面を見る。 「……は?」 思わず、間抜けな声が出てしまった。 初期化でもされたような真っ暗な画面。ホームボタンを押すと「電池残量1%」という赤文字と電池マークが一瞬点灯し、すぐに消えてまた暗くなった。 慌てて予備の携帯バッテリーとコードを繋ぐ。 充電マークは出たものの、やはり一瞬で消えてしまった。 「ここでエラーとか嘘だろ?!」 あ、ダメだ。 登山経験が豊富というわけではないが、これは引き返した方が良いと直感で分かる。 時間は午後3時だが、山中で怪我をしたまま日が暮れたらどうなるか。 すぐに踵を返し、登ってきた登山道を引き返した。
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