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ーーー登山が趣味で良かったと思う。 神奈川の大山とか東京の高尾山とか、手軽な山にトレッキング感覚で登るのも良い。 だが、今回はもう少し難易度の高い方にした。 先日、かなり嫌なことがあった。 SNSで暴言を吐いていたところ「山でも行って気晴らししてくるといい」と言ってくれた仲間がいた。 同じく登山が趣味というツイッター仲間は沢山いる。 「場所は秘密にしておけ」と言われたので、詳細な情報は書かないでおこうと思う。 サンカヨウ(山荷葉)という花がある。 花言葉は「清楚」。その名の通り、白い可憐な花を咲かせる初夏の山草だ。 北海道や鳥取の大山等、深い山の奥、少し湿度の高い場所に生息するという。 群生地があると写真付きで教えてもらったのは、鳥取の方だった。 この花には、一つ面白い特性がある。 ーーー「水に濡れると花弁が透明になる」という特性が。 俺の住んでいる兵庫と鳥取は、意外と距離が近い。 大阪や兵庫南部からだと岡山経由のほうが1時間ほど速く着くので無難だが、高速料金を払いたくないので山陰道から鳥取道を回って来た。 不要不急の外出は控えろ? 人の密集する地域で行き来するのが問題なんでしょ。 ごく一部の都市圏民以外からすると、人のいない場所に一人で出かけるなら何の問題もないって話ですよ。 というわけで、俺は幻の花を探しに行く支度をした。 近所の買い物以外に遠出するのは久しぶりで、心が浮き立っていた。
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