雨の日

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「うわ、お前生意気だぞ。」 和斗さんがふにゃふにゃと芯のない声で言う。 「また筋肉付けやがって。この辺全部移植しろっ。」 「ちょっ、冷たっ、冷たいですってば、和斗さんやめて」 筋肉チェックだと称して俺の服の隙間に侵入してきた和斗さんの手はひんやりしていた。 お酒に酔って顔は火照ったように桃色でも、元よりの冷え性は相変わらずらしい。 「あー、生き返るー。」 「…俺は死にそうですよ、和斗さん。」 「知らね。」 「和斗さーん…」 そういや同居していた頃も和斗さんはよくこうして手を温めに来たっけ。懐かしいが心臓に悪い。 密かに俺に下心を抱かれているとも知らない和斗さんは、散々に俺の腹筋やら腕筋やらをぺたぺたと撫で回した後、すうっと静かに寝息を立て始めた。 はぁ。ようやく大きく息を吐いて、俺の服に突っ込まれたままだった和斗さんの手をおもむろに引っこ抜いた。 その際、ふと和斗さんの指先にはめられた婚約指輪が目に付く。 割り切ったつもりでいたけれど…。 たった今改めて突きつけられた現実は、容赦なく俺の醜い感情を掻き乱す。 多分もう、和斗さんの目の奥に俺が映ることはない。 奥さんと…それから、彼らの息子に敵うわけがないのだから。 せめてこれだけは許されたっていいはずだ、と… 俺はぐっすりと眠る和斗さんを抱き寄せて、額にそっとキスをした。
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