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いつか、とは分かっていたのだ。
それでもあの時、内心期待していた自分もいて、突然の事態に消化しきれない感情がふつふつと浮かび上がってきた。
「え」と思わず頓狂な声を出すと、あの人は…和斗さんは俺にもう一度告げたのだ。
「近々結婚するんだ。」
照れ臭そうに笑う姿は愛らしかったが、その報告は俺には残酷だった。
相手の女性は俺もよく知る人。
簡潔に言うと穏やかでとても良い人だ。悔しいがお似合いだとも思う。
それからとても感が鋭い人。
一時期彼女は、俺と和斗さんの仲を深読みして疑っていた事もあった。
実際は何でもない思い過ごしで、和斗さんが弁明すれば彼女はすんなりとそれを受け入れたようだったが、ひょっともすると俺の醜い奥底の感情は彼女に気付かれていたかもしれない。
今思えば、結婚前に1週間も和斗さんを寄越してくれたのがある意味何よりの証拠だったんじゃないだろうか。
これまで和斗さんに執着してきた俺への、彼女なりの配慮だったのだろうが、気持ちを捨てるべき状況であんな期限付きの幸福…。
これなんて拷問だろう、と、当時はとかく頭を悩ませたものだ。
「何もしない保証なんてないのに。」
ぽつりと漏れた俺の声を恐らく和斗さんは拾おうとして、でも結局拾い切れず不思議そうに首を傾げていた。
その時俺は何でもない風に取り繕って、「おめでとうございます」と建前の祝いを述べたのだった。
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