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彼__和斗さんとの関係は、一言で表せるものではない。
血縁はまるでないし、残念ながら恋人だとか深い関係でもない。友達だとかそんなはっきりとしたカテゴリに入るかすら分からない。
今、俺はまだ世間知らずな大学生で、10も歳上の和斗さんは家庭もあってバリバリ働く社会人。
そもそもほとんど無接点だったはずの俺達が3年程前まで同居するに至った経緯は、他人に説明するには長い。まして理解を得ようなんて考えると。
「俺もとうとうお前離れかと思うと寂しかったよ。子供を他所に出す気分だったな。」
「他所へ行ったのは和斗さんでしょう?寂しくなったらたまに戻ってきちゃえばいいんですよ。って言ったのに…。貴方そんな素振りもなかったじゃないですか。」
「バタバタして落ち着く暇が無かったからな。子育てはなかなかハードだ。3つになってようやく余裕が出来たからふらっと帰ってみたんだが…そっか、ここにもでっかい子供がいたんだったな。」
悪戯に笑った和斗さん。
子供扱いされて思わず俺はムッとする。
「驚いて感情が昂っただけです。連絡してくれればもっと冷静に迎えられたのに。」
食事だってこんな…惣菜だかで手を抜いたりしなかったのに。
「そうなのか?じゃあやっぱしなくて正解だったな。反応が小学の頃のお前を見てるようで可愛かったぞ。」
「和斗さんっ!」
「あはは、怒んなって。まぁ、アポ無しは悪いことしたが…。久々に自分で鍵開けてみたくなって、つい、な。」
和斗さんはおもむろにポケットから取り出した鍵をテーブルに置いて俺の前に差し出した。
俺は直ぐにそれを取って、和斗さんの手に握らせて返す。
「返さなくていいんです。2本あったって俺は使わないし、もともとここは貴方の部屋だ。貴方にそのまま持ってて欲しい。」
「いいのか?お前が彼女でも連れ込んできた時に、タイミング悪く俺がいるかもしれんぞ?」
そう冗談めかして和斗さんは言った。
彼女…彼女か、考えたこともなかった。
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