ルミナス

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 無意識にベッドから上半身を起き上がらせていた千秋は、しばらく藍白から届いた四通のメッセージを、何度も読み返した。  誰に届いているともわからずに紡いでいた物語が、誰かの時間を食べて、その心を揺り動かしていた。そして、それは決して誰にでも簡単にできることではなかった。  自分でそう思うのはただの驕りだとしても、自分以外の存在にそう言われた途端、その思いは急に実感をもって、熱を帯びる。  今はまだ、誰の特別にもなれない自分だとしても、いずれは誰かの特別になれるのかもしれない。  けれども、それは十分すぎる自己研鑽があってこその話だし、今の自分の両手はまだ傷もなく、綺麗なままだ。  この手が甘っちょろいから栄光が手に入らないということなら、ぼろぼろになるまで鍛え上げなければなるまい。目指すところは、いくら神に祈りを捧げても手に入る種類の場所ではないのだから。  覚悟を決めた千秋は、藍白への返信画面を開いて、指をすべらせた。 「藍白さん、ありがとうございます。  手段が目的になる……という言葉はよくありますけど、わたしはいつの間にか、まさにその状態になっていた気がしました。  そういう意味で、わたしはずっと頭の中が真っ白になったまま、漫然と、ただの文字の羅列を作品と偽りながら、垂れ流していたのかもしれません。    でも、藍白さんのメッセージのおかげで、これからは、もっと鮮やかに言葉を紡げるようになれる気がします。  本当の意味で読み手を満足させられる作品が書けるようになるまでは、まだ遠いかもしれませんが、わたしは藍白さんのおかげで、ひとつの”気づき”を得られたような気がするから。  藍白さんをはじめとした読者の方をがっかりさせないような作品が書けるように、これからも頑張ろうと思いました。  最後まで見ていてくださいね。  chiaki」  千秋はそのメッセージを送信してから、相当に気恥ずかしくなった。プロ作家になったわけでもないのに、よくもぬけぬけとこのようなことを宣えたものだ……と。  それでも、これこそが「これからも楽しみにしているぞ」という読者からのメッセージに対する礼儀だと思ったし、藍白に返信したメッセージの内容に、嘘はどこにも、欠片ひとつもなかった。  千秋は自分の両手を、目の前に掲げてみる。  この手指と、頭の中に浮かぶ発想をもって、読み手の心を動かす濃淡をもたらすこと。  このことを忘れずに胸に留めていれば、望んだものはいつの間にか手の中に転がり込んでくる。そんな気がしていた。  今はまだ、人は「くだらない」と笑うだろう。それでもいい。その代わり、最後の最後に、顔をくしゃくしゃにするほど笑える明日を手に入れてみせる。  結果が全てだと笑える、この美しくも残酷な世界で。  ベッドから降りて机に向かった千秋は、パソコンを起動しながら、久々の執筆で書きたいことを頭の中のメモ書きから探った。  そして、手を組んでぽきぽきと音を鳴らすと、キーボードの上に、静かに指をのせる。  絵画ではない作品を、どう彩るかを考える。  ありがとう、藍白さん。  さっきと違って混じりっけのないその言葉を、千秋は口の中だけで、そっと呟いた。 <!---end--->
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