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「聖者オッペケ・・・」 魔法使いダスクは腰のホルダーに装着した魔法のほうきを握りながら天を仰いだ。 丘の上の宮廷から見下ろせる「クリの木公園」に 10メートルを超える いかついおっさんの像が建てられたのは数年前のことだ。 この巨大な像の汚れをいかにして落とすのかが目下の課題であった。大掛かりな足場を組んで高いところに上らなければならない。 こんなやっかいな仕事を軽々とこなすのがダスクの掃除魔法である。 先日大きな教会の掃除をやってのけた評判が彼の名をそこそこ有名なものにしていたのだ。 「頭の状態をよく見ておかないとな」 ダスクは聖者像の足元から双眼鏡で汚れの状態をチェックしていたが、高いところがよく見えないのだ。 くるりと振り返ると、少し離れたところに手ごろな塔が建っていた。聖者の像と同じくらいの高さで「クリの木」と呼ばれる建造物だ。 「ドン、行くぞ」 ダスクの相棒ドンはアライグマであるが、簡単な魔法をあやつりダスクのサポートをこなす頼もしい存在である。 ふたりは「クリの木」のふもとにたどり着き塔を見上げた。塔といっても10人もいればまわりを囲むことができる石造りの柱だ。中には入れない。 塔のまわりには石でできた細長いベンチがいくつか置かれていて、座ってお弁当を食べたりするのだ。 「これに登って見るしかないかな」 塔の表面には一ヶ所金属の棒を埋め込んだはしごがあり、てっぺんまで登ることができる。 ダスクがはしごに手をかけて2、3段上ったところで、相棒のドンも石の壁にツメをひっかけて登り始めた。 「ドン、危ないから下で待っててくれ」 「クリの木」は上の方で幅が広くなっていて、木登りが上手いアライグマといえどもそこまでしか登れない。そしてクリの木のふもとにはとげとげを生やした鉄のイガグリが置いてあり、もしこんなのの上に落ちたらただのケガではすまないのだ。 「ふう、上の方はちょっと広いんだな」 ダスクが塔のてっぺんまで登ったのはこれが初めてであった。ぐるりと石の壁で囲まれていた形跡があるが、それはほとんど破壊されており、落下を防ぐものがなかった。地上10メートルでこれはけっこう怖い。 ダスクは壊れた壁の一部に残っている石のオブジェのようなでっぱりに身を寄せながら、双眼鏡で聖者オッペケの巨像を観察した。 「ふむふむ、なるほど」 聖者オッペケの頭部はそれほど複雑な形ではなかったが、髪の毛のスジが無数に刻まれており、だいぶ汚れがたまっているようであった。 「ま、あの程度、どってことないね」 ダスクは腰のホルダーからほうきを取り外し、それを真横に持って構えた。 そして、目を閉じて呼吸を整える。 「掃除魔法。壱ノ型、龍雲招来!!」 ほうきを勢いよく振り回すと、小さなつむじ風が巻き起こった。ダスクは続けてほうきを舞うように振り回し、そのつむじ風をひと筋の竜巻に育てていく。 この竜巻でゴミや汚れをかき集めるのがダスクの掃除魔法なのである。 「行っけえ〜!!」 ダスクのほうきさばきによって生きた龍のようになった竜巻は、聖者オッペケの頭部へ向かって飛んでいった。 そして巨像の頭の周りをぐるぐると回り数年分の汚れを… 「ちょっとぉーー!!  何してくれちゃってんのよぉーー!!!!」 ダスクの足元からわめきちらす男の声が聞こえる。 「いや、あの、掃除を頼まれましたので…」 「いいから、すぐに降りてらっしゃい!!」 巨像を制作した芸術家に掃除のやり方がちゃんと伝わってなかったらしいのだ。自身の最高傑作に竜巻をぶつけるなど言語道断というワケである。 「えーと、竜巻を直接当てるんじゃなくてですね、あのー」 「よっ、ダスク。  なんかトラブってんな」 地上10メートルをほうきに乗ったままダスクに声をかけたのは、魔法学校からの親友であるデイブだった。 「なんか面倒なことになっちゃって・・・」 「ふーん。  ところでお前さぁ、ワイヤーみたいなの持ってないか?」 「ワイヤー?  パイプの掃除用のならあるけど」 ダスクは肩にかけたカバンから金属のワイヤーを取り出してデイブに見せた。 「それそれ!  ちょっと貸してくんねぇかな?」 「一体何に使うのさ?」 「いやー、ちょっといろいろあってな。  氷を切り出すのに使いたいんだ」 「氷?」 「実はさっき、、、」
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