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2.
「いててて・・・」
デイブは腰をさすりながら立ち上がった。
ゆるやかに下った洞窟を10メートルほど滑り落ちたそこは入り口から差し込む光でぼんやりと明るい。しかし、そこから右へ曲がって奥へと続く先は真っ暗で何も見えなかった。
「お前ら、大丈夫か?」
デイブはもつれ合っていっしょに滑り落ちた二人の新米ハンターへ手を差し伸べた。
「うう、まあ、なんとか」
「す、すみません…」
ふたりは這いつくばったまま、立つのもおぼつかない。足元がつるつるに凍っているのだ。
フリーズホーネットは氷の魔力を帯びたハチのモンスターである。洞窟の床を凍らせて滑り落ちた獲物を集団で襲うのだ。デイブたちはこの罠にはまってしまった。
「まいったな、作戦変更か」
フリーズホーネットはモンスターといっても普通のスズメバチよりわずかに大きい程度の昆虫である。大した相手ではないのだ。
このような低レベルのモンスターの討伐依頼は、たいていハンターズギルドの低ランクハンターが請け負うことになっている。
そして、駆け出しハンターの訓練としてこのような依頼に先輩ハンターが同行するのが、ギルドのならわしとなっているのであった。
当然、先輩ハンターであるデイブは氷の床を炎の魔法で溶かして安全を確保しながら奥へ進むように指導していたのだが、新米のドジな方が溶けきっていない氷に足をふみいれてしまい、3人のハンターがモンスターの罠に転がり落ちてしまったのだ。
「いいか、こういうときほど冷静になるんだ。
ヤツらはしょせん小さなムシだ。一匹一匹はたいした相手じゃない。
問題はその数だ」
デイブのアドバイスに応えるように、洞窟の奥から羽音が近づいてくる。
「ハチの巣の出入り口ってのはそんなに大きくないし、数も少ないんだ。そこから次々に出てくる。
つまり集団になるには時間がかかるってワケだ」
デイブは右の腰に下げたナイフを右手で取り出すと、その刃の部分を左手の指でこすった。
「ボッ」
ナイフに魔法の炎が宿る。
そして左腰のナイフを左手で取り出すと、今度はその刃を口元に近づけて小さくペロリと舐めた。これもナイフに魔力を宿す作法なのである。
左のナイフは氷の魔力を帯びてひんやりと青く輝いている。
そしてデイブが左のナイフを振ると氷の斬撃が洞窟の床に向かって飛び出した。
新米ハンターの二人は尻もちをついたままポカンと口を開けている。
「氷が滑るのは溶けて水になるからだ。学校で習ったろ?
つまり、凍らせちまった方がかえって滑らない」
新米ハンターの二人は口を開けたまま、首を何度も縦に振った。
「じゃ、先手必勝。
ハチの巣の丸焼きパーティと行くぜ!!」
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