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5.
「ちょっとぉぉぉ!
キズでもつけたらタダじゃおかないわよぅっ!!」
「あー、めんどくさいなあ」
「クリの木公園」の塔の上でダスクはポリポリと頭を掻いていた。
作者である芸術家が怒鳴り込んできて、いったん中止となった聖者オッペケの掃除の件は、関係者の必死の説得で、再開されることになったのだ。
しかし、この様子では掃除魔法もへったくれもないのであった。
「あっはっはっは! 大変そうだな、ダスク」
塔の上から笑い声の方を見下ろすと、デイブといっしょにこないだの少年がこちらを見上げていた。
「あ、デイブ。 それと、、」
「まだ名前も思い出せてないんだ。
今日はこれから、あの洞窟まで案内することになってな」
「あー、何か思い出せるかもしれないね!」
少年はダスクに向かってペコリとお辞儀をしたが、視線はじっとダスクの方へ向けられていた。
「あの、これって…?」
少年は塔を指差してデイブにたずねた。
「ん? これか? 「クリの木」とか言われてる塔だ。
ずいぶん昔からあるみたいだけど、見覚えあるのか?」
少年はまばたきもせず、ふらふらと塔に近づき、何かを確かめるようにその外壁をさすり始めた。
「これ、知ってます」
少年は小走りに裏側に回り、すばやい手さばきではしごを登っていった。
「どうしたの?」
みるみる間にダスクのいるてっぺんまで登ってきた少年の様子にたじろいだダスクが少し後ずさりすると、塔のてっぺんに唯一残された石のオブジェが見えた。
「これ…!」
少年はオブジェに駆け寄り、それを両手でがっしりとつかんだ。
「なんなの? それ」
ダスクには石のでっぱりにしか見えなかったが、少年はなつかしむようにそれをさすっている。
「ゴゴゴゴゴ・・・・」
「わっ、何だっ!?」
地震のような細かい振動が ダスクと少年を包み込んだ。
「こいつ、、動くぞっ!」
少年が声を上げると、塔の周りに置かれていた石のベンチが震えだし、ゆっくりと塔に向かって集まっていく。
「なん…だ、、こりゃ?」
デイブは後ろに下がりながら、おもわず腰のナイフに手をかけた。
やがて石のベンチは二手に分かれて塔の側面にへばりつき、這い上がっていく。さらに別のベンチは塔のふもとで2つの列を作った。
「これ……、手と足…か?」
離れた位置から見ていたデイブには、石の塔が人のかたちに変わっていくのがよくわかった。
そしてその巨人はゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「うわーーー!! 何、何? 何なの?」
ぐらぐらゆれながらせり上がっていく塔の上でダスクは気絶寸前であった。
「で、でけえ…」
デイブは倍ほどの高さになった石の巨人に圧倒されていた。
「全て思い出しました・・・」
少年はまっすぐ前を見つめたまま、ダスクに打ち明けた。
「巨大兵士『ゴンデム』」
「ごんでむ?」
「ボクはこのゴンデムに乗って魔界の軍勢と戦っていたんです」
「ま、まままま、魔界!?」
ダスクは魔法使いであったが、魔界などというものは伝説やおとぎ話のものだと思っていたのだ。
少年は石のオブジェに手をかけたまま、ぐいっと首を伸ばして巨人の足元を確認した。
そして、石のオブジェを意味ありげにさすると、巨人はその右手をゆっくりと上へ持ち上げていく。
巨人の右手には鎖が取り付けられていた。今まで石のベンチの下に埋まっていたのだ。
巨人が右手を大きく掲げてその鎖を引っ張ると、ボコボコと地面が割れて、むき出しになっていく。そして鎖のつながった先には例の「イガグリ」が繋がっていた。
「うわー、クリじゃなくて武器だったじゃねーか!
なんか、そんな気はしてたけどな!」
デイブを含め、塔の周りにいた人々は慌てて逃げ出した。
青年がぐりぐりと石のオブジェをさすると、巨人は鉄球を持ち上げてぐるぐると振り回し始めた。
「おい! 危ねぇから 止めろ!」
絶叫するデイブの声に はっとした青年がデイブの方に目をやった瞬間 視界の隅に何かが映った。
「そこっ!!」
次の瞬間、とげとげの鉄球は聖者オッペケの頭部を粉々に砕いていた。
「パタり」
静寂の中、芸術家の倒れる音だけが「クリの木公園」に響いた。
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