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上映が終わって会場を出ると、光がまぶしい。
すぐに現実に戻って来られなくて、なんだかボーッとしてしまう。
莉子は、小さな土産物のコーナーで、何かを手に取って眺めている。
近寄って見れば、十二星座をかたどった、スワロフスキーのキーホルダーだ。
「琥珀って、何座だっけ?」
答える代わりに、琥珀は自分の星座のキーホルダーの輪っかの部分に、人差し指をひっかけた。
「買う?」
尋ねると、
「うん。じゃなくて、こっ……」
莉子は言いかけてうつむいた。
「何?」
「えっと、こ……」
こ?
こはく?
こひつじ座?(そんなのあったっけ?)
「こ、交換しない?! お互いの星座!」
莉子が顔をあげて、思い切ったように言った。
なるほど、「こ」は、交換の「こ」だったらしい。
「ああ」
琥珀はうなずいて、キーホルダーをレジに持っていった。
莉子が、琥珀の表情をうかがうようにして、口を開いた。
「ありがと。あのう、イヤじゃない?」
「何が?」
「ううん。琥珀って……こういうことしてくれるイメージないから。
イヤじゃないかなって思って」
「別に。イヤなら買わないし」
「そーお? じゃあ、さっそくリュックに付けよっと」
莉子は、合皮のリュックのチャックのところに、いそいそとキーホルダーを取り付けた。
「キラキラしてて、可愛いよねえ。
あとでスクバに付け替えよっと……」
「じゃあ俺もスクバにつける」
莉子は「えっ」と叫んで、顔をあげた。
「なんだよ?」
「ううん……えへへ。嬉しいな……」
「……なんだよ……」
莉子が顔を赤くして笑っているので、つられそうになる。
パタパタと手のひらで、自分の顔に風を送った。
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