二人の初デート!!

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お昼を食べていなかったので、ふたりでハンバーガーショップに入った。 適当に注文し、トレイを運んで、向かい合わせの席に座る。 「プラネタリウムよかったね。やっぱりミヤケンはいいよねえ……」 「ミヤケン?」 「宮沢賢治のことだけど……そう略さない?」 「略さない」 「わたしはね、電車の中で、鳥のお菓子を食べるシーンが好きなの。 なんだか遠足みたいじゃない? どんな味がするのかなって」 莉子は、自分が好きな話だと、饒舌になる。 琥珀は、フライドポテトをつまみながら、フンフンと相槌を打ってやる。 「琥珀は? どうだった? 好きなシーンとかあった?」 尋ねられて、さきほどの上映を思い出す。 途中からなら、ちゃんと見てた。 「俺は……サソリのところ」 「ああ、サソリ。かわいそうだったよね」 物語のなかで、サソリはイタチに追いかけられて、うっかり井戸に落ちてしまうのだった。 死の間際、どうせこのまま死ぬのなら、黙ってイタチに食べられてやればよかった、とサソリは後悔する。 自分が命を捧げていたら、あのイタチは一日、生き延びることができただろうに、と。 ――俺がもしサソリだったら。 琥珀は思考をめぐらせる。 俺だったら、きっとそんなふうに、悔やんだりしない。 だってどうせイタチだって、感謝しやしないんだ。 ハラいっぱいになったら、すぐに、サソリのことなんか忘れるだろう。 俺だったら、ギリギリまであがいて生きようとするし、大体、井戸に落っこちるようなヘマはしない。 でも莉子は、違うんだろう。 莉子はドジだから、多分、井戸に落っこちる。 だから俺がそばにいないと。
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