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「琥珀? どうしたの?」
莉子が不思議そうに、顔をのぞきこんでくる。
「いや、なんでもない」
琥珀は、顔を上げた。
莉子の椅子の後ろがわを、小学生くらいの子供たちが数人、はしゃいだ声をあげて通り過ぎていく。
ぼうっと眺めていたら、ひとりの男の子が、椅子の足につまづいて転んだ。
「きゃ!」
莉子が小さく叫んだ。
莉子のブラウスの背中に、ジュースがかかってしまっている。
友達らしい少年たちが振り返って、「何やってんだよ。ハル。だせーっ」
とはやし立てるように笑い声をあげた。
「……あの、大丈夫?」
莉子がかがみこんで、男の子に手を差し伸べた。
ハルと呼ばれた少年は、サッと莉子の手を払った。
落としたポテトをあわてたようにかき集めて、友達のところに戻ろうとする。
「おいっ、お前。ちゃんと謝れよ」
琥珀は、椅子からガタンと立ち上がって、ハル少年の行く手を阻んだ。
少年は、ビクッとして、おびえたように琥珀を見上げた。
「謝れって。莉子の服が汚れただろうが」
少年は小声で言った。
「知らねーよ。バーカ」
「ハアーッ?!」
「……琥珀、待って」
莉子は琥珀の腕を押さえ、少年に向かって、ほほえみかけた。
「大丈夫? わたしのジュース代わりにあげるね。
まだ飲んでなかったから。……オレンジだけど、いい?」
少年は、大きな目で莉子を見つめると、「いらない」と言って走り去った。
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