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莉子は濡らしたハンカチで、ブラウスをぬぐっている。
「後ろ、やる」
琥珀は、莉子のハンカチを借りて、背中のメロンジュースの染みを、トントンと拭いてやる。
「くすぐったい」
莉子が、くぐもった声で笑った。
「落ちた?」
「……落ちない」
首、ほっそいなあ、と思う。
「お前、お人好しすぎ。サソリかよ」
「えっ? サソリって?」
「……なんでわざわざ、あのガキにジュースあげようとするわけ?」
「うーん……」
「むかつくだろ、普通に……。
多分これメロンジュースだし、洗っても落ちないかも。
せっかくかわいい服着てきてくれたのに……」
「え、かわいい?」
「服がな!」
「うん、ふ、服がだよね……分かってる」
莉子にハンカチを返して、琥珀は席に戻った。
ハンバーガーをかじり、指についたソースをチロリと舐めて、ふと顔をあげれば、莉子がおかしそうに口元をゆがめている。
「なに笑ってんだよ?」
「ううん。あのね、なんであの子に、ジュースあげようとしたかっていうとね」
「うん」
「あの子が、子供の頃の琥珀に、ちょっと似てるなって、思ったからなんだよね」
「そうか? 俺はあんな生意気じゃなかっただろ」
「生意気だったよ……。昔は話しかけられなかったもん。怖くって」
「ハアー?!」
「ほら、怖い」
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