冷たいあの人

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 由紀子の母は、夫の変化に戸惑う娘のことを気にかけ、ある場所を訪れた。 「いらっしゃいませ!」  スーツ姿の男が微笑みながら彼女のもとへ。 「調子はどうですか?」 「それが……」  彼女は娘の主張――夫が冷たくなっている――を男に伝えた。内面的な問題ならまだしも、身体的に冷たくなってしまっていると。 「さようでございますか」 「なんとか身体だけでも――」 「では、体温を再現するプログラムを組み込んでみましょうか」 「そんなことができるの?」 「もちろんでございます」  男は饒舌(じょうぜつ)に説明をはじめた。 「人間を完璧に再現できる弊社のネオヒューマノイド。大切な人を失われたお客様の寂しさを癒やすため、ご要望に応じて提供させていただくケースが大半です。そのため、お客様ご自身も伴侶がヒューマノイドであることを百も承知。ですから、体温の再現などよりも、やはり性格、声、仕草など、人となりの再現にこだわりを持たれるのが一般的です。ただ、費用を惜しまず完全再現を希望される方も、もちろんいらっしゃいます。追加料金は決して安くはありませんが、もしよろしければ!」 「娘のためだからねぇ」  娘の幸せが途切れてはならない。そんな使命感を表情に(にじ)ませながら、プログラムの組み込みに同意した。
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