冷たいあの人

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冷たいあの人

 ここ最近、夫の様子がおかしい。  興味深く私の話に耳を傾けてくれたり、家事にも協力できだったりと、表向きは以前と何ら変わらない。他人が見ても、夫の変化には気づかないだろう。  子供が望めないかもしれないと医師に告げられたことで、決断した二人きりの人生。生涯のパートナーとして夫のことを心から愛し信頼している私が、その微妙な変化に気づかないわけがない。  もはや、私にとって夫は、別人だった。  どう変わったか?  明らかに冷たい人間へと豹変してしまった。彼に触れたときに伝わってくる温度でわかる。彼の身体そのものが、明らかに冷たくなってしまったのだ。 「なんか、変わっちゃったんだよね」  私は実家の母に電話で相談した。 「人ってそんなにも急に変わるもんかねぇ?」 「明らかに冷たいのよ」 「仕事で疲れてるんじゃないのかい?」 「仕事で疲れてるからって、身体が(・・・)冷たくなっちゃうかな?!」  母には夫の変化を理解してもらいたくて、ついムキになる。 「身体?」 「そう。彼に触れてみればわかるわ。人間とは思えないくらい、冷たくなっちゃってるのよ」 「お化けじゃあるまいし」母は笑う。 「もしかして彼……お化けにでも取り憑かれちゃったのかな」  冗談っぽく言ってはみたが、もはや霊の仕業だと説かれたほうが納得できるかもしれない。 「それはそうと、話は変わるんだけど……」 「なんだい?」 「ここ数か月間の記憶が、すっぽりと抜け落ちちゃってるんだよね」
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