カミモノガタリ

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 四年生になってすぐのころ、クラスに転校生がやってきた。  名前を宗田颯太(そうだそうた)くんといった。  颯太くんは男の子なのに小柄で、女の子みたいな顔をしていた。彼はとても人当たりが柔らかくて、すぐにクラスに馴染んだ。  颯太くんの席はわたしの隣りだった。  転校してきた日、颯太くんは「初めまして、よろしく」と挨拶をしてくれた。  それから毎日、朝には「おはよう」帰るときには「また明日ね!」と声をかけてくれた。  クラスの誰もわたしに挨拶なんてしてくれなかったのに、颯太くんだけはわたしに声をかけてくれた。  休み時間にはお喋りをした。  授業中には難しい算数の問題を教え合いっこしたりもした。  髪の毛が無いことで周りに気持ち悪がられて、誰かと話すことなんてほとんどなかったわたしにとって、颯太くんと過ごす時間はとても楽しいものだった。    颯太くんは本が好きみたいだった。  わたしが図書館で借りた本を読んでいると、よく「なんの本読んでるの?」と訊いてきた。  本を読み終わって図書館に返すと、次は颯太くんが借りていた。そして、「僕も読んだよ!」とその本のことを話した。  ゴールデンウィークが終わった頃、わたしはニットの帽子をメッシュの涼しいものに変えた。  色はこれまでと同じ黒なので、パッと見では違いがわからない。  でも颯太くんはそれに気がついた。 「帽子変えたんだね。前のもいいけど、新しいのも似合ってる」    ちょっとした変化なのに、それに気が付いてくれたことが嬉しかった。  好きな男の子に髪型を変えたことを気付いてもらえた女の子は、きっとこんな気持ちなんだろうな。なんて思った。    ちょうどその日の5時間目、生活の時間に席替えがあった。突然の席替えだった。  わたしは席替えが嫌いだった。みんなわたしの隣りを嫌がるから。  今回はいつもよりも、もっと嫌だった。  席が変わったら颯太くんと離れてしまう。だからとても嫌だった。  颯太くんは、わたしに笑顔で「おはよう」って言ってくれる。「また明日ね!」って手を振ってくれる。 いつも話しかけてくれる。話を聞いてくれる。  席が離れてしまったら、もう颯太くんはわたしと話してくれなくなってしまうかもしれない。  それがとても不安だった。  出席番号順にクジを引いた。  わたしは12番のクジを引いた。  その席は三列目の前から二番目だ。  隣りに座るのは、同じ12番のクジを引いた男の子だ。 「うわぁ! ハズレ引いた! 最悪だ!!」  クラスで一番体格のいい男の子の声だ。 「何番? 何番?」  数名の男の子が周りを取り囲む。  きっとあの男の子が12番だ。  先生の合図でみんなが一斉に机を動かす。  所々で「やったー」とか「お前が隣りかよ!」とか様々な声が上がる。  颯太くんはわたしに「またね」と声をかけると、椅子を机の上に置いて、他のクラスメイトと同じように移動を始めた。  ああ。颯太くんと離れちゃう。    こんなに寂しい気持ちになる席替えは初めてだった。    わたしは重い机と沈む気持ちを引きずって、示された場所へと移動して椅子に座った。  今日から1学期が終わるまでここがわたしの居場所になる。  颯太くんが隣りだったから、新学期の始めからの一ヶ月と少しの間は本当に楽しかった。  颯太くんは席が離れてもわたしと話してくれるかな。やっぱり他の子の方がわたしよりも楽しいって、話さなくなっちゃうのかな。  寂しさと不安で俯いていると、誰かがガタガタと机を引きずってやってきた。   「こんにちは。またまたよろしくだね!」  その声に顔を上げると、颯太くんがにっこりと笑っていた。  その笑顔にわたしの不安や寂しさはパッと消えてしまった。どんより曇った空が一瞬で晴天になった様な気分だった。 「颯太くんが12番だったの?」 「そうだよ〜。これはウンメーだね」  颯太くんは「ウンメー、ウンメー」と繰り返して机から椅子を下ろした。  これで次の席替えの日までは、颯太くんのお隣りだ。  わたしは嬉しさで胸が熱くなった。    
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