カミモノガタリ

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 夏休み。  今年の夏休みは去年までと少し気持ちが違っていた。  去年まではクラスメイト達に会わないことが嬉しかったのに、今年はもっと教室に居たいと思った。    これはきっと颯太くんのせいだ。  夏休みがつまらない。  こんな風に感じたのも初めてだ。    これも颯太くんのせいだ。  わたしは颯太くんに会いたくてしょうがなかった。  8月の中頃に市立図書館へ行った。  夏休みの宿題に読書感想文があったからだ。  読む本はなんでもいいらしいのだけど、どうせなら既に読んでしまった家にある本じゃなくて、読んだことのない本の感想を書こうと思った。  市立図書館は家から歩いて行ける距離にある。蝉の合唱を聴きながら散歩するには丁度いい距離だ。    わたしは道中で喉が渇いてもいいように、冷えたペットボトルをタオルで包んでリュックに入れた。  借りた本がペットボトルの水滴で濡れないように手提げ鞄も持っていく。  道を歩るきながら空を見上げると、青い空に真っ白な大きな入道雲が湧いていた。  4歳の夏。わたしは夏の空を病室の窓から眺めていた。  締め切られた病室に蝉の合唱は届かず、青い空に浮かぶ入道雲が真夏の太陽光を反射して白く輝くのをベッドから見ているだけだった。  お外で遊びたい。  窓の外の夏空を眺めながら、そんなことばかり考えていた気がする。    こうしてわたしが夏の太陽の下で、蝉の合唱を聴きながら歩けるのは、本当に奇跡なのかもしれない。    そう考えると髪の毛くらいでわたしを生き長らえさせてくれた神様は、けっこう優しいのかもしれない。なんて思った。  図書館の自動ドアが開くと冷んやりとした風が身体を包んだ。 「はぁ。涼しい」  ため息と同時に声がもれる。    館内は意外と混んでいた。  夏休みだからだろうか。学生風の人が多い。  わたしは本を探すために児童書のコーナーへ向かった。  すれ違う人がわたしの頭に視線をやるのがわかる。学校生活で慣れたとはいえ、やっぱりこういう視線を感じるのは気分がよくない。  本を選んでいると不意に肩を叩かれた。  振り向くと、真っ黒に日焼けした男の子が立っていた。 「そっ! 颯太くん!?」  颯太くんの突然の登場に驚いて、声が大きくなってしまった。  颯太くんはビックリして慌てて「しーっ!」とやっている。 「ごっ、ごめんなさい」  わたしが口を押さえて謝ると、颯太くんは「ぷっ」と吹き出した。それにつられてわたしも笑う。 「久しぶりだね」 「うん、久しぶり。颯太くん真っ黒だね」 「おじいちゃんの所に行ってたんだ。毎日畑の手伝いしてたから日焼けしちゃった。見てこの半袖焼け!」    颯太くんは袖をめくって日焼けの境目を見せてくれた。 「チョコのお菓子みたいでしょ?」      
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