カミモノガタリ

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 わたしが「美味しそう」と笑うと、颯太くんは「食べないでください〜」と戯けて見せた。 「今日は図書館に何しに?」 「読書感想文の本を借りに来たの。颯太くんは?」 「僕も同じ。感想文を書いたら夏休みの宿題は終わりなんだ」 「あ、わたしも」 「お揃いだねぇ」 「うん。お揃いだね」  颯太くんと久しぶりに会って、わたしはずっと笑顔だ。笑いすぎてほっぺたがどうにかなりそうだった。  でも、それくらい颯太くんと会えたのが嬉しかった。  それからわたしは颯太くんとふたりで本を選んで、少しお喋りをした。 「そうだ。明日の夜って何か予定ある?」  別れ際に颯太くんがそう言った。 「夜?」 「うん。明日って夏祭りでしょ。よかったら一緒に行かない?」  一緒に?  わたしと颯太くんと一緒に夏祭りに、行く?  胸がドキンと鳴った。    行きたい。  とっても行きたい!    お父さんとお母さんに「友達と夏祭りに行きたい」って言ったら反対されるだろうか。 「あの。行きたいけど、わからない。お父さん達に訊いてみないと……」 少し俯いてそう言うと、颯太くんは「わかった」と鞄から紙を出してえんぴつでサラサラと数字を書いてわたしに握らせた。 「僕の家の電話番号。行けそうでも、そうでなくても電話ちょうだいね」  わたしの手を包む颯太くんの手が温かい。その熱が腕を這い上がって頬に伝達される。 「じゃ、待ってるね!」  颯太はパッと手を離すと、手を振って行ってしまった。  わたしはポーッとしてしばらくその場から動けなかった。  夕飯のとき。わたしは夏祭りのことを両親に切りだした。  毎年「夏祭りに行くか?」とお父さんに訊かれるけど、自分から行きたいなんて言ったことは一度もない。 「お父さん」 「うん?」 「あの、友達とね。友達と夏祭りに行っていい?」 「ぶっ! ごほっ!ごほごほっ!!」  わたしがそう言った瞬間、お父さんは飲んでいたお茶を噴き出しそうになり、お母さんはお箸を落とした。 「とっ、友達と夏祭りっ?」  両親の反応を見て、これは望み薄だな。と肩を落として「ダメかな?」ともう一度訊いてみる。  するとお父さんがわたしの肩をガシッと掴んで「いいぞっ! 行っていいぞ!!」と頷いた。 「なぁ、母さんっ! いいよなっ!」  お父さんがお母さんを振り向くと、お母さんは目元を拭って、でも冷静に「子供だけではダメよ」と言った。 「じゃあ、お父さんが引率してやる! それならいいだろう!!」  お父さんがそう胸を叩くと、お母さんはニコリと笑った。 「それなら安心ね。楽しんでおいで」  まさか夏祭りに行くことを許してくれるなんて思わなかった。  お父さんが一緒って条件付きだけど、初めて友達と夏祭りに行ける! 颯太くんとお祭りに行けるんだ!! 「それで、友達ってどんな女の子なんだ?」 「女の子じゃないよ」 「え……。まさか男か?」 「うん! 颯太くんっていうの。とっても優しいんだよ!」 「あらあら。それじゃあ浴衣を着てうんと可愛らしくしないとね」 「そっ、そうだなぁ! あはっ、あはははぁ〜」  お母さんは満面の笑みだったけど、お父さんの笑顔は少し引き攣っていた。  
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