ネームレス・ウエディング

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 それからというもの、彼女はこのコンビニに頻繁に訪れるようになった。  買うものは決まって14番のタバコと、鮭おにぎり。後たまに季節によって桜餅を買ったり、アイスを買って行ったりもする。  格好はもちろんウエディングドレスではもうなくて、仕事帰りらしいややこなれたスーツ姿の日もあれば、お洒落な私服の日もあった。  徒歩で来ている所を見る限り、もしかすると住む家が近くなったのかもしれない。それか、元々近くてタバコを買いにだけコンビニに来るようになったのかもしれないと思う。  一番初めの時はウエディングドレス姿でしかも厚いお化粧をしていたからか、あの時一緒にいた後輩君や店長はあの時の彼女と、最近コンビニに来る彼女が同一人物だってことにはどうやら気付いていないらしい。  私も最初は何処かで見たなって思ったぐらいだったんだけど、決め手はあの紅い色のルージュだった。  彼女はあの最初の一回以外も、どんな格好の時でもいつもあの紅いルージュをつけていた。多分あのルージュは彼女のお気に入りなんだろう。彼女にはやっぱりそのルージュが良く似合っていて、だからこそ私は彼女を見分けることが出来たのだった。  それにしたって、彼女の初印象は衝撃的だった。  なに分驚いたのは私だけではなかったぐらい一般的に見ても印象的だったわけで、まずウエディングドレスで駆けこんで来るなんて、何処のドラマ番組だよってくらいドラマチックが過ぎる。  忘れるにはあまりに衝撃が強かったから、私は日課である人間観察をしながらも彼女がコンビニにやって来る度それをつい思い出した。  彼女は一体全体どんな経緯であの日ウエディングドレスを着たままコンビニに駆け込んできたのだろう。  14番のタバコを箱買いしたのは何故だろう。昔から吸ってたんだろうか。それともわざわざ指定して吸いたくなるような理由が?  考えても一生分からないであろう可能性が何度も私の中に飛来する度、私はますます彼女のことが気になって仕方なくなっていった。  こういうことは勘ぐろうとするほど無粋で失礼だろうとも思うのだが、考えてしまうものは考えてしまうのだから仕方がない。許して欲しい。そうして今日も益々観察がやめられない。  でも私は名探偵シャーロックホームズではないから、彼女が訪れるようになってから暫くたっても、彼女の仕草から何一つ真実を得れることはないのだった。
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