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「先輩、今日の夕食は何食べるんですか?」
「うーん、今日はあえての唐揚げ弁当かなー」
「昨日もコンビニ弁当だったじゃないですか」
「コンビニ愛が深いんだよ、私は。空よりも海よりも」
「それじゃあ浅いんだか深いんだか分かりませんよ」
後輩君の言葉に話半分で応えながら、私はその時頭の中ではずっと別のことを考えていた。
先にも述べた通り、私が人間観察をする上で大切にしていることは二つある。
一つ目は観察対象に気が付かれないようにすることで、じゃあ二つ目は何なのかというとそれは、観察対象に決して干渉しないようにすることである。レジで接客する分は仕方がないので勿論省く。
これは一見、一つ目と被っているように思われるかもしれないが、その意味合いはちょっと違う。
私は人間観察をすることで他人の人生をちょっとだけ覗き見ているあくまで第三者であって、その当事者になることはないという話だ。
例えば私は観察している二人が両片思いで永遠ともだもだしていることがあってもそれに干渉したりしないで見守るし、お客さんが買うものを間違えていることを知っていてもそれがよく見ていないと分からないような事であれば言わない。
なんだか極端な例なのだが大体そんなことだ。
私はどうにも元々感情的なタイプらしく、人を観察しているうちに必要以上に感情移入して距離感を間違えることが結構ある。
でも私は、だからこそ彼らの物語の中であくまでネームレスのままでいたかった。
一回も名前を呼ばれることすらないモブのモブ役。物語で名前を呼ばれるということは、すなわち特別を意味している。道端ですれ違う人に名前はいらないのだから。
だがその日私はまたしてもその信条を前にして揺らぎかけていた。
それもまた、あのルージュの彼女相手に、である。
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