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「あの、先輩──」
「よしっ」気合を入れるために声を出す。後輩君が何か言いかけていた気もするがまあいつもの雑談だろうから大丈夫だろう。それより今私には重大な使命がある。
「三分! 三分待って! カップラーメンがラーメンになるまで待つぐらいの気持ちで一つ!」
「は、はい。はい?」
勢いよく後輩君を振り向いて言い残してから、私はレジから出て幸い人のいない店内に足を踏み出した。
その日私は自分の信条を半分破った。
熱い缶コーヒーを後輩君に変わってもらったレジで買って、外に飛び出る。彼女が顔をうつむけたままなのをこれ幸いとコッソリ近付くと、彼女の傍らにコーヒーをコッソリ置いた。
「それっ、飲んでください!」
店の中に入ってから自動ドアが閉まり切る前に声を上げる。そそくさとレジの中に逃げ帰ったので彼女が顔を上げたかどうかは分からなかった。
ドアから少し窺える彼女の様子は暫く変わらなかった。
でも少ししてから見たらあの缶コーヒーを静かに飲んでいるのが見えて密かにホッとする。
彼女はその日缶コーヒーを時間をかけて飲んで、気が付けばいなくなっていた。
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