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入口を潜ると足場の悪さに違和感を覚える。
「あぁ、そういやぁ、散らかっているから足元気をつけてなぁ」
ジャリジャリと靴裏に不快な感触が伝わる。どうやらガラスのような物が店内に散乱しているようだ。
暗さに目が慣れ少しずつ見えるようになってきてわかったが、店内は酷く荒れている。椅子があちらこちらに転がり、テーブルは逆さまになっているものさえある。床に散らばったガラスの破片はどうやら酒瓶のようだ。
店内のカウンターの奥に微かに光が溢れている場所がある。
戸を開くとどうやらそこは社員専用の休憩室のようだ。
「さぁ汚いけど適当に座ってくれ」
そういうと店長はパイプ椅子を出してきた。
私はその椅子に座ると辺りを見回した。ここも酒瓶があちらこちらに転がっている。私は無表情のままさらに視線を滑らせていくとある場所で止まった。
「わりぃな、お茶は出せねぇんだ。それで変わりと言っちゃなんだがな」
そう言って店長は冷蔵庫から缶コーヒーを取り出すと机にぽんと置いた。
「御気遣いなく。ところで例の喫煙所はあちらですか」
私は視線の先を指さした。
「あ、あぁ」
「見てもよろしいです?」
「あぁ。頼むよ」
私は立ち上がると喫煙所に近づいた。近づいて気づいたのだが、部屋の隙間という隙間が、ガムテープで塞がれている。
そして何故か覗き窓まで新聞紙で覆われているのだ。これでは喫煙所の中を見ることができない。
「あの、どうしてこんな隙間を埋めるようにテープが貼ってあるんですか?」
「それかい。それは、その、臭うんだよ」
臭う?
「いったいどんな臭いがするんですか?」
店長は、顔を下げ少し気まずそうに話す。
「肉が腐ったような臭いがするんだ」
肉が腐った臭い……。
「ここで何があったのかお話し聞かせていただけますか?」
「わかった」
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