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怒りのあまり握り締めた拳が小さく震えている騎士達を見ながら、団長は苦笑して言う。
「俺たちが相手ではろくに話も聞いてくれそうにないな······イツキ、カイの指導を全面的に頼みたい。良いか?」
「···········わかった。」
おおお!!やっと隊長の側にいれるのか!
流石、団長は話がわかるな!
「それと、カイ。上には俺からてきとうに話しておくが、やっぱりお前がただの平民の出だとするのは無理がある。この国の騎士団は上の意向で騎士の過去の詮索をすることは殆どないが、俺は騎士団の透明性はしっかりしておきたいからな。いつ誰に問い詰められても良いように、嘘でも良いからそれっぽい過去でも考えとけ。」
嘘でも良いのかよ。ほんとガバガバだな。
「じゃあ·········近所にナイフの扱いがすげえ上手い爺さんがいて、その人に師事してたんだ。」
「······俺が嘘でも良いって言った瞬間に言うか普通?ていうかせめて本当の事だと思えるような言い方をしてほしいんだが。」
聞こえませーん。
団長が眉間を揉みながらため息をついた。
日頃の疲れからくる頭痛かな。お大事に。
疲れきった目をした団長が、隊長にすがるような目を向ける。
「イツキ·······本当、頼んだぞ。」
切実そうな団長とは反対に、隊長は感情の読めない表情で頷いただけだった。
隊長にピッタリと引っ付きながら出ていったカイを見送り、騎士達と団長はこそこそと話す。
「甘すぎませんか団長。せめて上下関係くらいわからせないと······」
そう言って憤慨する騎士に団長はわかってる、と呟くしかない。
わかってはいる、が。
「なんだかなあ。怒らせたらヤバイタイプの人間な気がするんだよ、カイって。勘だけどな。」
そう言われると、他の騎士達は黙るしかない。
どういうわけか団長の勘は恐ろしいほど当たるのだから。
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