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思ったより近かった。
死ぬ気で走ると、あれほど遠くに感じた明かりが、すぐ近くにあったみたいに早く着いたのだ。不思議…。
その明かりは誰そ彼の中静かに佇み、鮮やかな色の木で建てられ、5階建てぐらいで横に長く、ぽつりぽつりと明かりが点る中華風の造りをし、高級な雰囲気を醸し出した大きな建物だった。
「誰そ彼…旅館?」
入口の暖簾の上に付けている木の看板にそう書いてある。
どうやら誰そ彼旅館というらしい。
旅館なら…泊めてもらえるだろうか。
お金は…無いのだけれど…とりあえず他に建物が無いか情報収集も兼ねて入ってみよう。
暖簾をくぐり、玄関らしきところに来る。
前に受付らしき所があって、その左右に扉とエレベーターが置いてある。
「あの…誰か、いますか?」
少し大きめの声で中に呼び掛けるが、反応は無い。
「誰かいますかっ!」
先程より大きな声でまだ中に呼び掛けると……
りぃん……
どこかから、鈴の音がなった。
続けてしゃん、しゃん、と束になった鈴の音が聞こえる。
やばい。何故か分からないけれどそう思った。背中にぞわり、とした感覚……
なにか、来る!!
「いらっしゃいませぇーっ!」
その声を引き金に、いつの間にか受付の前にびっしり狐の面を被った少女たちが並んでいた。
…なんなんだ、この子達は。妖独特の雰囲気を感じない。普通なら、妖は独特の人間とは違う雰囲気を纏っているはずだ。それで私も人間か妖か区別しているのだから。
少女たちは声をまた揃えてこう言った。
「誰そ彼旅館へようこそ!」
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