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【 第8話: 人を愛するということ 】
お兄ちゃんは、私の鳴き声で、後ろを向いたまま起き上がり、胡坐をかいた状態で私に言った。
「何で泣いてるんだ……?」
「う、うぅ……、だって……。ううぅ……」
私は涙が溢れて止まらない……。
右手で涙を拭う。
「もしかして、俺が女性と一夜を共にしたと思ってるのか……?」
「ううぅ……、分からない……。どうしてか、分からない……」
すると、急にお兄ちゃんが怖い顔をして振り返り、私の肩を両手で掴むと、私を床に押し倒したんだ。
『バタンッ!』
「お前は、俺にこうして押し倒して欲しいのか!」
「えっ……!?」
私に覆い被さって、そう言ったお兄ちゃんの目はすごく真剣だった。
また涙が瞳から溢れ出して、ポロポロと床に零れていく。
「お前は、人を愛するということが分かっているのか!?」
「分からない……。それでも、お兄ちゃんのことは好きなの……」
お兄ちゃんは私の両肩を持ったまま、私をじっと見つめている。
何故か、お兄ちゃんのいつも綺麗な頬に、『傷』があった……。
私が、一度ゆっくり目を瞑ると、お兄ちゃんは、覆い被さった状態から離れて、再び背を向けた。
「若菜……、ごめん……。俺、最低だ……。お前にこんなことをしてしまって……」
やっぱり、お兄ちゃんに何かあったんだと思う……。
「俺さ、実は昨日、サークル活動の後、先輩たちと合コンだったんだ……」
「合コン……?」
「ああ、先輩が好きだった子いただろ? その後、先輩に頼まれてその子に先輩と付き合うようにお願いしてたんだ。でも、その子、やっぱり俺のことが諦め切れないらしく、それを酔っていた先輩に知られて、俺、先輩に殴られたんだ……」
「そ、そうだったの……?」
「その後、先輩にさっき俺が言ったあの言葉を言われたんだ……。『お前は、人を愛するということが分かっているのか!』って……。俺も血が上っていたから、思わず売り言葉に買い言葉で、『ああ、分かってるよ!』って先輩に言っちゃって、その子を連れて、その子の家まで行っちゃったんだ……。でも、俺自身、結局、人を愛するということが全く分かっていなかった……」
お兄ちゃんから衝撃の言葉だった……。
お兄ちゃんは、その女性の家に泊まってしまったんだ……。
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