【 第9話: 大人になっていくお兄ちゃん 】

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【 第9話: 大人になっていくお兄ちゃん 】

 先輩に殴られてしまったお兄ちゃん……。  頬に怪我をしてる……。  私は起き上がり、持って来ていた絆創膏をポーチから取り出すと、お兄ちゃんの前まで行って、頬の傷にやさしく貼ってあげた。 「お兄ちゃん、痛かった……?」  すると、お兄ちゃんは、突然、私の体を抱き寄せたんだ。  そして、私の胸で泣きながら、こう言ったの……。 「ごめん、若菜……! こんなお兄ちゃんで……。うぅぅ……、ごめん……。ごめんよ……」 「いいよ、お兄ちゃん……」  お兄ちゃんが始めて私の前で泣いた。  いつも強くて頼もしいお兄ちゃんが……。  お兄ちゃんには、お兄ちゃんの人生がある。  そのことに、初めて気付かされた気がする。  私の知らないお兄ちゃん……。  私より先に、大人になっていくお兄ちゃん……。  でも、それでもいい……。  私の気持ちは変わらない……。  ずっと、好きな気持ちは変わらないよ……。  私は涙を拭うと、お兄ちゃんに向かって笑顔でこう言った。 「お兄ちゃん、少し休んだら、後でうなぎ食べよ。若菜特製だから、精がつくよ」 「ああ、ありがとう……。若菜……」  お兄ちゃんにも、ようやく笑顔が戻った。  ――そして、夕方頃、うなぎの蒲焼をもう一度炭火で温めて、お兄ちゃんと一緒に食べた。  少し寝たからか、お兄ちゃんはいつも通り、私に接してくれる。 「おお、本格的だな、炭火焼きって。炭の香りがして美味しい! それにこの若菜の特製ダレも秘伝のタレみたいに美味だな!」 「ホント? そう言ってもらえると頑張って作った甲斐がある。うふふっ」  またお兄ちゃんとこうして一緒にご飯を食べられることが幸せ。  少しくらい寄り道してもいい……。  いつかは、若菜のことを夢中にさせたい……。  そんな魅力的な大人になりたいんだ……。 「お兄ちゃん、かわいいメイド猫ちゃんだぞ♪ ニャンニャン♪」  切ない気持ちを抑え、私の今できる最高の笑顔で、お兄ちゃんにアピールしたんだ……。
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