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【 エピローグ: 大人の階段 】
私は道路のアスファルトの上で、膝を抱えて雨の中、一人泣いていた。
今日の雨は、いつもよりも冷たく感じる。
私の頬から零れた涙は、この夏の雨の中に全部溶けていくよう……。
そこへ、お兄ちゃんが駆け寄ってくる。
お兄ちゃんも傘は差してない。
「若菜、一度部屋へ戻ろう……」
お兄ちゃんが、やさしく肩を抱いてくれる。
「お兄ちゃんは……、あの女性のことが好きなの……?」
「バカだなぁ。好きな訳ないだろ。お前、まさか俺が彼女と男女の仲になったって思ってないか? 彼女の家に泊まったのは事実だけど、彼女とは何もないから」
「えっ……? ほんと……?」
私は、顔を上げお兄ちゃんの方を見る。
お兄ちゃんは、雨に濡れながら、はっきりと私にこう言ったんだ……。
「ああ、好きでもない人なんか抱ける訳ないだろ」
その瞬間……、
お兄ちゃんは、何故か私のことを
『抱きしめた』……。
いつもよりも強く強く、私のことを抱きしめてくれた……。
(これが本当のお兄ちゃんの気持ちなの……?)
私の感情はもう制御が効かなくなっていた。
「うぅぅ、うぅぅ、うわぁーーんっ!! うわぁーーんっ!! うわぁーーんっ!!」
涙が止まらない……。
大きな声を出して、お兄ちゃんの大きな胸の中で泣いた。
雨もそれに合わせて、いつしか土砂降りの雨に変わる。
私の今の感情と同じように、私の涙の量と同じように……
激しく、激しく降り続いていた。
神様、どうかこの雨で、私とお兄ちゃんの間の全ての蟠りを洗い流して下さい。
そして、晴れた時には、またいつものふたりに戻して下さい。
どうか、神様、お願いします……。
(お兄ちゃんのことが……、大好きだから……)
『ザァーーーーーーッ!』
~大人の階段~
END
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