冷たい彼氏が居なくなるまで

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 幸い、彼氏は一度家に戻ってそれなりの服になってたし、私もちょっとおしゃれして、デートすることにした。  まあ、デートって言っても近所をブラブラするだけだけど。彼氏は何も食べないからレストランにも入れないし。結局昼はマックでテイクアウトして公園で食べたりした。あとは私が気になってたアクセサリーの店とか、あ、ハンズも行った。  まあ、そんな感じで夕方までデートして、だんだん寂しくなってきちゃって。  朝言ってたことが本当なら、このデートが終わったら、彼、死んじゃう。  なんか急に寂しく、というか怖くなっちゃって、なかなかアパートに戻れなくてさ。結局、暗い中公園でおしゃべりする形になった。 「どう、今日のデート楽しかった?」って聞くと、「うん」って。  嬉しい返答のはずなのに、デートがうまくいったら死ななきゃいけないじゃん、ってなって、「なんで!?」とか変な言い方しちゃって。  彼はちょっと驚いたみたいだったけど、「楽しかったよ」って。  それから私の良い所ばっか話してくれた。明るくて、おしゃべりで、意外に人に気を配れる。意外は余計だよ、と私も笑って。おしゃべりっていい所? って聞いたけど、僕がしゃべらないから一緒にいるとき楽しくなるんだよ、とか言ってくれた。これ以上は惚気になるから書かないけど、とにかく思い出も含めてたくさん褒めてもらって、もうそれが最後の言葉かと思ってだんだん泣けてきて、最後はわんわん泣いちゃって。  結局私は彼に背中をさすられながら二人してアパートに戻った。  昨日は寒くて別々に寝たけど、寒くてもなんでも、私は彼をぎゅっと抱いたまま寝た。最後の夜だと思って。  次の朝起きたら、彼氏も起きた。  なんだか彼も戸惑ったように「おはよう」とか言ってきて、私は昨日の夜のことを思い出してこっぱずかしくて仕方がなかった。  昨日はいったい何だったんだ!  私は何と言っていいのかわからなくて、黙ったまま身支度をすませた。大学へ行こうかどうか迷ったんだけど、流石に帰ってきたら彼氏が本当に死んでた、というのは避けたかったので、もう一日は休むことにした。自主休講ね。  で、今日もデートしようか、と話したりしたんだけど、今度は逆に出かけずに、家デートの方がいいか、と思って、家で映画でも見ることにした。ちょうど飲み物とかスナックとか切らしてたから、コンビニだけは一緒に行くことにして。  ちょっとテンションが上がってたと思う。サブスクの中にちょうど見たかった映画があったのもあるけど、それより前日の気分の、いい所だけがまた戻ってきてて、まだ彼氏と一緒にいられるとか、なんだか改めて彼が好きだな、とか惚れ直すような気分になってた。  それが良くなかった。  昨日言われたように私はおしゃべりで、夢中になりすぎて赤信号に気が付かなかった。彼は止まったんだけど、私はそのまま車道に出ちゃって、横を見たら車が突っ込んできてた。  あっ、と思って目をつぶった。  それから強い衝撃があって、私は。  派手に転んでた。  目の前には、変な方向に止まった車と、倒れた彼氏の姿があった。  私はあわてて起き上がって彼氏に駆け寄る。 「大丈夫!?」って声をかけて、一瞬「あ、もう死んでるか」と思ったのはちょっと秘密だけど。とにかく彼を抱えて声をかけた。  そしたら「うん」って普通に答えられて、ホッとした。ああ、やっぱり死んでるから大丈夫だったんだって思った。  だけど彼は「ごめんね、ダメみたい」とか言う。なんで、って思って彼の体を見たら、湯気と言うかモヤみたいなのが立ち上ってて、「えっ、えっ」ってなって。 「守れてよかった」  って言ったら、彼はゆっくりと目を閉じて、それから二度と目を開けてくれなかった。  救急車がきて、彼を病院に運んで行った。今度は彼が生き返ることはなくて、私は彼の遺体を霊安室で見て、お葬式にも出た。  火葬場の煙突から煙が立ち上るのを見て、もう戻ってこないんだなあって思った。  たぶん、事故を起こして私にけがをさせたことを悔やんでたのかな、って思う。それで、わざわざ戻ってきて、今度は私を事故から守れたから、満足して逝っちゃったんだろうなって。  私の話はこれで終わり。なんか最後の方ちょっと駆け足だったけど、本当に彼が死んでからのことはほとんど覚えてない。いろんな人にいろいろ聞かれたけど、なんだかうまくごまかしたみたい。覚えてないけど。  とにかく聞いてくれてありがとう。  あんまり信じてもらえそうにない話だし、リアルだと誰かに話すこともできなかったから、聞いてもらえてスッキリした。  もう二年前の話なんだけど、これでちょっとは彼のことが吹っ切れそうです。 《了》
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