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閉ざされた秘密 4
「……これは?」
桂人の足首を掴んで傷の状態を確認していた海里さんが、眉をひそめた。
「海里さん? どうかしましたか」
「いや、何でもない。割れた硝子が運悪く足の指に突き刺さってしまったようだね。傷が思ったより深いから、やっぱり縫った方がいいな」
「……縫う? そんなのおれには不要だ!」
「おいおい、縫わない方が後々痛いよ。君は……それを知っているだろう?」
「くそっ、もう離せっ!」
俺が背後から抱きかかえて診察台に無理やり座らせた桂人が、ジタバタと藻掻き出す。俺の腕をすり抜けようと必死だ。
細い躰のどこに、こんな馬鹿力があるのか。汗をかいた白い肌がほわっと紅梅色に染まる様子は、まるで雪に埋もれる梅のように綺麗だった。
桂人のうなじを不謹慎にも見入ってしまった。
「おいっ……何見てんだよ! 気色悪っ」
「あ、悪い」
俺の腕の中で暴れる桂人を、海里さんは一瞥するだけで余裕の表情だ。外科医をしていれば、様々な患者と遭遇するだろうし、痛みに対する人の恐怖は大小差があるのを知っている顔だ。
「テツ、我儘な坊やをしっかり押さえておけよ」
「誰が坊やだ! ふざけるな!」
「桂人、大人しくしろ。お前が怪我したのは……急に話しかけた俺に責任がある。この通りだ。じっとしていてくれ」
俺はそもそも人の相手をするのに慣れていないので、困惑してしまう。ずっと植物としか話をしてこなかったから、こういう時どう声をかけてやればいいのか分からない。
桂人は突っ張っているが、実は怖がっているのだ。それだけは伝わってきた。
炊事場で失神してしまった桂人が俺の衣を掴んだまま離さないので、床を共にした。布団の中で俺に埋もれたあどけない寝顔を思い出すと……どうしても憎めない。
お前は……傷ついた獣のように震えている。
そう言えば以前こんなことがあった。庭に迷い込んできた手負いの猫を保護し、怪我が治るまで世話したことがあった。あの時はこうやってよく抱っこしてやり、夜は同じ床で温めてやった。
「大丈夫だ。こうやって俺が抱いてやるからじっとしていろ。すぐ終わる」
「う……」
「怖くないよ」
麻酔の注射はかなり痛いらしく、右胸あたりをグッと抑えて桂人は耐えていた。
「痛っ……」
ギュッと目を瞑り、カタカタと震えている。
「ふぅん……よほどこの子は痛みが怖いようだ。可哀想に……でも麻酔が効けば大丈夫だから、少し躰を解せ」
海里さんは慣れた手つき、真剣な目つきで、一縫い、二縫いと手早く縫合していった。
「はい、終わったよ」
「海里さん、ありがとうございます」
「暫くは無理させない方がいいぞ」
「そうですね。桂人、よく頑張ったな」
頭を撫でてやると、思いっきり不快な顔で睨まれた。
可愛くないが、可愛い奴だな。尖ってピリピリして……でも本当は怖がりなのだろう?
「おれ……もう帰るっ」
「おい、その足で? 待てよ」
桂人が俺を押しのけ、足を引き摺りながら医務室の扉を開けると……
そこには!
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