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まるでおとぎ話シリーズ番外編『春の雪』 18
まだ昼前なのに、カーテンを閉じると、そこには暗い闇が生まれた。
社に閉じ込められていた時、おれは闇が怖かった。
吹雪の日なんて最悪で……寒さと雪の音と暗闇の三重苦、いや空腹にも苛まれ……死んだ方がましだと何度思ったことか。
本当は……何度か試みたのだ。もう楽になりたいと――
だが、あの人が許してくれなかった。
10年にも渡る……夢も希望もなく辛い日々だった。
その果てには、きっと『死』が待っているだけだと思ったのに、違った。
あたたかい『愛』が待っていた。
こんな特殊なおれを愛してくれる人と巡り逢うなんて、予期せぬ出来事だった。
おれはテツさんを愛している。心の底から、全身全霊で愛している。
ばばちゃが夜な夜な話してくれたお伽話は、途中は怖かったが、最後は幸せになる話だった。
ばばちゃ……今のおれは本当に幸せなんだ。男同士なんて関係ないよな? きっと春子も分かってくれる。そう信じたい。
「桂人……桂人」
「テツさん」
身体が勝手に熱くなり、暗闇の中で抱擁し、唇を重ねる。
次第に弾みがつくように、深まっていく。
「お前、可愛いな」
「ん……」
「もう少し触れてもいいか」
「あぁ」
首筋を舐められ……シャツのボタンを外され、胸元を弄られる。
平らな胸をテツさんの大きな手で揉まれ、粒を摘ままれ引っ張られ、擦られたりすると、下半身に熱が移動していく。
「テツさん、駄目だ……まだ昼だ」
「悪い。桂人に構って欲しくなった」
「テツさん、構って欲しいのはおれの方だ」
自分でシャツのボタンの残りを潔く外した。
「テツさん……触れてくれ」
ベッドへ押し倒される。
おれたち、また欲情している。
テツさんの身体が媚薬なのだ。きっと――
長い間、庭の樹木と向き合い薬草を育ててきた身体が、俺を魅了する。
「この身体……好きだ。おれを抱きしめてくれよ。もっと強く」
****
「雪也があんなに男らしいしゃべり方をするなんて、驚きました」
「しっ」
「あ、すみません。『しー』ですよね」
「そうだ」
柊一が、焦った顔を浮かべて振り向いたので、そのカタチのよい唇に指をあてた。
雪也くんを心配する柊一を見かねて、雪也くんの後を二人でつけてしまった。
尾行するなんて……瑠衣に見つかったら絶対に怒られるな。紳士として失格だと。
「もう大丈夫そうだな」
「はい。仲良さそうで安心しました。春子ちゃんはお兄ちゃんっこなんですね」
「あぁ『Brother Ccomplex』とも言うな」
「ブラコン? じゃあ……海里さんと瑠衣みたいな関係もそうですよね」
「ははっ、君と雪也くんもだな」
「あ、そうですね。くすっ」
俺たちは、男同士で愛し合っている。男女のように何も生み出さないからこそ、その兄弟や肉親への情が強く増していくのかもしれない。
俺は異母兄弟の瑠衣を、柊一は弟の雪也くんを深く愛しているのは、認め合っている。
あの幼かった雪也くんの初恋なのか……3歳の時から彼を見ているので、もはや父親の心境だ。柊一は母親の心境かもしれないな。
「まだまだ淡い恋ですよね。しかも雪也の一方的な……」
「どうだろう? 春子ちゃんはまだ目覚めていないだけかもしれないぞ」
「だといいですね。僕、雪也のこと応援したくて……身内贔屓ですかね?」
「そんなことない。俺も同じさ。さてと、そろそろ俺たちだけの時間に切り替えよう。おいで」
雪也くんと春子ちゃんが庭園迷路に入っていったので、俺たちはそっとその場を離れた。
「秘密の庭園の鍵を持っているかい?」
「はい」
「俺たちはそこに移動しよう」
そう伝えると柊一は頬を染める。
テツと桂人に1年がかりで改修してもらった秘密の庭園は、俺たちだけの空間だった。
清らかな日が降り注ぐ東屋で、愛を語ろう。
****
「待って、待って!」
「早くおいで!」
手を力強く引かれて、びっくりした。
雪くんって、こんなに活発だったの? 大人しいだけの男の子だと思っていたのに意外だわ!
「ここが『ムーンセレナーデ・テラス』なんだ」
「わぁ! すごい名前ね」
四方八方を高い生け垣で囲まれたテラスは、日が当たるとキラキラ輝くモザイクのタイルが敷かれ、美しい場所だった。
「月夜には、とてもロマンチックな気分になるらしいよ」
「ロマンチック? なんだか分からないけど、楽しそうね」
「ははっ、そうだな」
あ、まただ。雪くんって、ちゃんと男の子だったんだ。
「雪くん、なんだか最初と感じが違うね」
「そうかな? どこが」
真っ直ぐに見つめられ、何て答えたらいいのか分からなかった。男の子らしいなんて言ったら、れっきとした男の子に失礼よね?
「えっと……」
私にしては珍しく言葉に窮する。いつも口が達者だと言われていたのにヘンね。
「いいよ。今度教えて。僕は……これからなんだ。ずっと心臓の具合が悪くて病弱に育ってきたので、いろいろ遅れを取っているから」
「えっ、そうだったの。そんな風に見えないわ」
「一番、嬉しい言葉だよ」
明るく笑う雪くんの笑顔は生命力に満ちあふれていて、つい……見蕩れてしまった!
あとがき(不要な方はスルー)
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ここ数日、少しまったりとした展開だったでしょうか。『幸せな存在』が山場を越えたので、こちらはもう少し加速した方がいいのかな……とも? ←少し弱気です💦
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