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まるでおとぎ話シリーズ番外編『春の雪』 23
「あの双子の……子守りの仕事?」
「そうなの! 私、子供をみるのは慣れているわ」
「……」
おれが、ずっと春子の子守りをしていたのに、いつの間にこんなに大きくなって、一人前のことを言うようになったのか。
まるで親のような心境で、熱心に隣の家で提案されたことを話す春子の生き生きとした顔を見つめてしまった。
「お、お兄ちゃんってば、聞いているの?」
「あ、あぁ……おれに異存は無いよ。テツさん、どう思う?」
「悪い話じゃないな。お向かいの白江さんの家ならば安心だ」
「やった! ただでここに置いて貰うのは気が引けるし、私はやっぱり身体を動かすのが好き!」
そんなに喜んで。お前はまだ16歳で、東京では高校に通うのが普通なのに、おれ、兄として不甲斐ないな。
まだおれには……春子を養う程の金も能力もない。何しろ俺自身が10年の空白を埋めている段階だから。
「悪いな、春子には苦労をかける」
「何言っているの? 私、お兄ちゃんが迎えに来てくれて嬉しかったのよ。あの時、もしも一分一秒でも遅かったら、もうこの世にいなかったかもしれない。見ず知らずの人のお嫁に行かされなくて良かった」
「……春子はもう自由だ。怯えなくていい。自由に恋をして好きな人と結婚していい」
まるで我が身のことのように、熱く語ってしまった。
しかも結婚だなんて――
おれ、幸せに酔い過ぎなのか。
****
「いいですね。白江さんの元ならば安心です。いい職が見つかりましたね」
「じゃあ、いいんですね」
「もちろんだよ。たまに我が家のティールームの手伝いもしてもらえると嬉しいよ」
柊一さんに話すと更なるお仕事をもらえて、嬉しくなった。
雪くんも、隣で嬉しそうに笑ってくれていた。だから思わずピースサインを送ると、雪くん、少しびっくりした顔で辺りをキョロキョロ見渡して、私の真似をしてくれた。
ふふっ、なんだか楽しいわ。
雪くんとは、もう仲良しね!
翌日から私は白江さんのお家で、9時から17時まで働くことになった。
仕事の内容は、お転婆娘のあーちゃんの面倒をみること。なかなか手強いお嬢さんだけれども、田舎育ちでタフな私は、充分彼女の体力について行けた。
「春子ちゃん、お疲れ様。今日は夕が朝からお熱で大変だったわ。ふぅ、やっと朝の顔を見られるわ」
「ママ!」
あーちゃんも流石に半日以上お母さんの顔を見ていなかったので、白江さんの顔を見るなり彼女の胸に飛び込んで、抱っこしてもらった。
「ゆーちゃんのお熱、高いんですか」
「あの子は生まれつき病弱でね、風邪を引くと長引くしこじらしてしまって……どうして同じように健康に産んであげられなかったのかしらね」
「そんな……」
少し疲労困憊のようすの白江さんが、あーちゃんの走り回って汗ばんだ頬をハンカチで拭きながら微笑んだ。
「そうそう、桂人くんがさっき様子を見に来たわよ」
「え! お兄ちゃんがいつ? 気付きませんでした」
「正確には様子を見に来たのではなく、また覗き見してたわ」
「え! また木登りして?」
「そうよ。桂人くんって妹想いね! ここに来るのは恥ずかしいのに気になっているのね」
「……兄はそういう人なんです」
「ふふ、春子ちゃんはお兄ちゃんが大好きなのね。兄妹が仲良しなのは良いことよ」
大好きなお兄ちゃんには聞けないことがあるけれども、それよりもお兄ちゃんの幸せを願おうと決めたの。あの痛々しい背中の傷を癒やしてくれる人と巡り会って欲しいな。
「私はお兄ちゃんが大好きですが、お兄ちゃんが結婚する時はちゃんと笑顔で送り出します」
「え……桂人くんが結婚って? そんな話あるの?」
「いえ……でも兄だってもういい歳です。都会で綺麗なお嫁さんもらって幸せになってもらいたいんです。お父さんにもなって欲しいし……お兄ちゃんは凄くカッコイイと思うから、きっとモテルだろうな。それに優しいから、いいお父さんにもなれるわ!」
一気に捲し立てると、白江さんが困惑した表情になっていた。
あら? お兄ちゃんを贔屓し過ぎたかしら?
「あのね……春子ちゃん……あなた」
「はい?」
「ううん……あのね……もしも桂人くんが女性と結婚しなかったらどうする?」
「えっと、どういう意味ですか」
「あ……その……人にはいろいろあって……子供を授からなくて……お父さんになれないこともあるでしょう」
明るく颯爽と生きているように見える白江さんが、躊躇いがちに聞いてきた。そうね、赤ちゃんを授からないご夫婦もいるわ。
「そうですね……確かにそういう事もあるかも! でも大丈夫です」
「大丈夫って?」
「春子がいい人と結婚して赤ちゃんを産みます。それでお兄ちゃんに可愛い赤ん坊を抱っこしてもらいます!」
「まぁ! うふふ……それって……雪也くんと同じ台詞を言うのね」
「雪くんと?」
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