まるでおとぎ話シリーズ番外編『春の雪』 30

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まるでおとぎ話シリーズ番外編『春の雪』 30

 部屋で落ち込んでいると、春子ちゃんの声がした。わざわざ来てくれるなんて、涙も引っ込むよ。 「雪くん、入ってもいい?」 「あ……どうぞ」  扉を開けると、海里先生も立っていた。 「あ……あの、海里先生、さっきはごめんなさい」 「俺には謝らなくていいよ。それにわざとじゃないのは分かっている。だから……あとで柊一と話してやってくれ」 「はい! そうします」 「じゃ、春子ちゃんとごゆっくり~」  海里先生は何故かウィンクして、華やかな笑みを浮かべて去っていった。まったくいつも大人の余裕なんだから。 「春子ちゃん、さっきは君を置いて逃げてしまってごめん。男らしくなかった」 「ううん、雪くんの気持ち分かるわ! お兄ちゃんって、どこも一緒なのね。私のお兄ちゃんも昔から口やかましくて『薄着過ぎる! 腹を冷やすな!』って」 「へぇ、桂人さんもなの?」 「そうなの、お兄ちゃんってば、自分には無頓着なのに」 「あ……それは分かる!」 「くすっ、でしょ? この前なんて私が部屋にいるのに真っ裸でお風呂から出てきて、目のやり場に困ったわ」 「わわ、でも想像できるな。野生児っぽい所あるよね、桂人さんって」 「うんうん」  春子ちゃんと話していると、気が楽になって来た。 「さっきは……雪也くんが私を驚かせないようにと、茂みに隠れてくれたのね」 「え?」 「あのね……今、海里先生から、あなたのお兄さんとの関係を聞いたばかりなの」    驚いたな。海里先生自ら兄さまとの関係を告白したのか。いや……海里先生らしい行動だ。    兄さまと海里先生の恋は、真摯な愛……誰に恥じることもない。なのに……僕は考えすぎて、頭の中がこんがらがっていたようだ。 「僕たちの両親が交通事故で急に亡くなって、切羽詰まって大変な時期があったんだ。追い詰められた兄を救ってくれたのが、海里先生だった。だから僕も全面的に賛同しているんだよ。こんな話……驚いた?」 「確かにびっくりしたわ。でもあの二人は本当に仲良くてうっとりするほどロマンチックなんだもん。男の人同士でも、おとぎ話の世界のように美しいのね」  よかった……そんな風に兄たちを捉えてくれて嬉しい。 「あぁそっか、だから白江さんがあんなこと言ったのね。やっと意味が分かったわ」 「白江さんが何て?」 「んー、ナイショ!」 「雪くん、一緒に柊一さんに会いに行こう! 私もお兄ちゃんっ子だから分かるの。あなたは今、お兄さんにとても会いたいでしょう」 「春子ちゃんと話していたら気持ちも落ち着いて……実はとても会いたくなっていたんだ」 「じゃあ行こう!」  また春子ちゃんが僕と手を繋いでくれた。  うう……やっぱりドキドキするな。  春子ちゃんは意識していないの?   少しは僕のことも気になってくれているのかな?  ****    雪也くんと私は似ている所があるから、彼の心が真っ直ぐに伝わってくるの。 私達、生まれも育ちも真逆よ。でも……雪也くんは重い病気を抱えて生きてきて、私は生まれながらの環境に怯えながら生きてきた。追い詰められて生きてきたのは一緒よね。  雪也くんには心臓の手術で人生の転機が訪れ、私は秋にお兄ちゃんが迎えに来てくれて、人生の転機がやってきた。 『人生の転機』って『自分の人生が大きく変わるきっかけ』だわ。人生の転機を無事に掴まえた。じゃあこの先……良い方向に進むのか、悪い方向に進むのか……それは私次第なのね。  この数ヶ月は環境に慣れるのに精一杯だったけれども、そろそろ考えたいな。私の進む道――  もしかして雪也くんも、今の私と同じ場所にいるのかもしれない。   「兄さま、さっきはごめんなさい」 「雪也、僕こそごめん。気持ちも考えずに」 「違う! 兄さまは悪くない」 「いや、僕のせいだ」  二人の仲直りの様子を微笑ましく聞いていると、海里先生が私に話しかけてきた。 「彼らは、とても仲良し兄弟だろう?」 「そうですね」 「特に今まで雪也くんには重い病気があったから、つい柊一も過保護になってしまうようだ。でももう大丈夫……雪也くんはどんどん成長するよ」  確かに、雪くんを見ていると、いい刺激をもらえる。 「私も成長したいです」 「そうだね、君たちはまだ16歳と15歳。人生はこれからだ。今はいろいろな経験を積むのが一番さ。まだまだ苦い経験もあるかもしれない。それでも進んで欲しい。さっきの俺たちの話……受け止めてくれてありがとう。君ならきっと大丈夫だと思ったんだ」 「純粋に素敵だと思いました。お互いに想い合う心が見えたので」 「やっぱり春子ちゃんは素敵な女の子だね、魅力的だ」  やだやだ! そんな甘い顔で王子様スマイル!  困っちゃう。柊一さんのものなのに~!    ジタバタしていると、雪くんに軽快に笑われた。 「春子ちゃん、もしかして海里先生の甘い光線にやられた?」 「うん、やられたわ!」 「もうっ、海里先生は向こうに行って下さい」 「悪い、悪い! 俺はお邪魔だったな」   おしらせ(不要な方はスルー) **** 私が桂人不足ですので、後ほど20スター特典の続きを書きますね! チョコレートの行方が気になってきました。
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