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『春の雪』後日談 ~海里と柊一の場合~
短いですが、後日談を少し置きます。(こんな風に色々な角度から後日談を書いてみたいです。不定期になりますがよろしくお願いします)
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「雪也……とうとう行ってしまいましたね。瑠衣が同行してくれるから大丈夫だとは思いますが……どうにも心配です」
「彼自身が選んだ道で、成長するために巣立ったのだから……そんなに不安がらなくても、大丈夫だよ」
雪也を見送った後、部屋に戻ってきてからも未練がましく窓から外を眺めていると、海里さんに頬を優しく撫でられた。
ふと……無性に泣きたくなってしまった。でも兄として、泣くわけにはいかない。雪也は明るく旅立ったのだから。
でも、まさか雪也と別れて過ごす日が訪れるなんて……考えもしなかった。
雪也が産まれた日の記憶が、脳裏に鮮明に浮き上がってきた。
可愛い弟に重い心臓病が発覚した時は、僕が変わってあげたいと落ち込んだ。それからは雪也を守りたい一心で生きてきた。10歳も歳が離れていたので、両親亡き後は父となり母となり……まるで保護者のような気分だった。
「柊一、まだ寂しいのか」
「うっ……はい……」
海里さんが、寄り添ってくれる。
僕の……子離れ出来ない親のような脆い心に。
「戻って来るよ。雪也くんは必ずここに」
「はい……」
「それまでは、俺と君とでここを守っていこう。彼らが安心して帰って来られるように」
海里さんの胸元に深く抱きしめられ、深い口づけを受けた。
そのままシャツを開襟され……過敏な首筋を辿られると、喉が細かく震えてしまった。
「あ……あの……」
「君はここが弱い」
声を外に出すことを、暗に促されているのだ。
泣きたくても泣けない僕に……。
「あ……そこは駄目です。声が……窓が開いていますし……扉も閉めないと」
「暑いから、このままでいいよ」
「で、ですが……」
「誰も聞かないよ。テツと桂人は今日は休みで、部屋に閉じこもっているだろうし……さぁ、哀しみに濡れた兄の心は解き放ち、俺の恋人の顔になってくれ」
海里さんは、いつもこうやって僕の心を守り、自由にしてくれる。
「あ……うっ……あぁ……」
「そうだ……もっと啼いて。俺たちはまだまだ新婚だろう? いや……永遠に新婚気分かもしれないが……おっと、俺は何を言って……」
海里さんが、自信の発した言葉に頬をうっすら染めた。
「あ……嬉しいです……僕も……そのつもりです」
雪也には、雪也の人生がある。
僕には僕の――
だから……僕が選んだ道を信じ、僕が送り出した雪也を信じていこう。
「窓を閉める?」
「いえ……今日はこのままで」
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