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『春の雪』後日談 ~テツと桂人の場合⑬
明日からいよいよ由比ヶ浜の白江さんの別荘に旅行だ。
俺と柊一は、期待に満ちながら旅支度をしていた。
自分の水着を風呂敷に詰めたところで、ふと疑問が浮かび上がった。
柊一とレジャーに行くのは初めてで、プールも海も初体験だから、年甲斐もなくワクワクする。
「ところで柊一、君は泳げるのか」
「はい泳げます。中学の時、遠泳の合宿がありましたので、海でも大丈夫です」
「へぇ、そうか……君は確か初等科から習学院だったよな」
「そうです。雪也もですよ。あいにく雪也は合宿には行けませんでしたが」
「そうだな、だが英国にも海があるよ。日本と同じ島国だからな」
「そうなんですね。行く機会があるといいですね。あぁどんな所だろう」
ん? 待てよ……その時点で俺は大変なことに気付いてしまった。
君の学校の伝統行事は、確か遊泳場での夏合宿と聞いたぞ。しかも白い褌で遠泳だったはずだ。大学の友人に、柊一と同じ学校の卒業生がいたから、面白可笑しく当時の話を聞いたものだ。
まだ少年体型の柊一の白い褌姿だって?
いやいや、歴史ある学校の立派なしきたりを馬鹿にしてはいけない。なので遠回しに聞いてみた。
「柊一は、そう言えば水着を持っているのか」
「それが……あいにく、その後は泳ぐ機会がなく……でも身体はしっかり泳ぎを覚えています。なので当時の褌を持って行こうかと」
「えぇ? それは……是非見たいけれども駄目だ!」
「え? あの……どちらですか」
あぁ、なんという日本語だ! 煩悩欲望にのまれるとは、このことを言うのか!
「そうだ。確かまだあったはずです。流石に褌は……質には入れられませんでした」
「そうか、入れなくてよかったよ」
君が使用した褌なら高値で買うヤツがいるかも……あ、俺はまた変なことを考えてしまった。
おい、スマートな海里はどこにいる?
髪を掻きむしり、悶えてしまった。
壁に向かって自問自答していると、柊一が寄ってきて笑われた。
「海里さん? 悩ましいことでも? あの、これなんです」
「あ、あぁ……」
本当に真っ白だ! しかも前袋つきの褌じゃないか。これは貴重品だ!
「でも、もう小さいかも……」
「いや、そうでもないんじゃないか。なんなら、その……試してみるか」
「え……あ、そうですね。今から試着してみます」
「え、大丈夫なのか」
「はい! 付け方ならちゃんと覚えていますので大丈夫ですよ。少し待って下さいね」
「え、おい……」
柊一には恥じらう様子がないのに、俺が照れるのは変だろう。
遠泳は立派なスポーツだ。俺も心を無にして褌姿の柊一を見なくては。
心を落ち着かせようと、ワイングラスを口につけた。
「あの、どうでしょう? 悔しいことに、まだ入りました」
衣装部屋から柊一が褌姿で現れた時には、白ワインを吹きそうになった。
「しゅ……柊一」
褌というのは、なんと官能的なのだ! やましい心で見ると、こんなにも艶めいて見えるものか。
日焼けしていない白い肌、少年のようにほっそりとした身体に白い褌が食い込んで……
「煽られたよ……参ったな。もう待てナイ」
「え? あの……あぁ……そんな所に触れないで下さい!」
君を俺の膝の間に座らせ前袋を撫でてやると、柊一の腰が震えた。
「これは、もう裸同然だね、今すぐ抱ける」
「そんなつもりでは……うっ」
「褌は……俺の前だけにしてくれ。君には違う水着を手配するよ。そんなに緊張しなくても大丈夫。今日はこれをつけたまま抱いても?」
「海里さん……もしかして僕の褌姿に煽られたんですか」
いきなり核心を突かれて、うっと言葉に詰まってしまった。
嘘はつけない。柊一には……
「あぁ、とても期待してしまった」
「……嬉しいです。僕が海里さんを奮い立たせたなんて……くすっ、光栄です」
あぁぁ、可愛い。
柊一のピュアな反応が本当に可愛い。
君の身体を抱き寄せ、前袋の隙間から指を差し込んだ。
「ん……あぁ、駄目です。旅行の支度……まだ出来ていないのに」
「明日の朝でも、充分間に合うよ。おいで、ベッドに行こう」
楽しい旅行にしよう。
その前に、俺たちは……今日も二人の世界を泳ごう。
君とあの日出航した船は、順調に航海を続けている。
あとがき(不要な方はスルーで)
****
こちらも褌ですね。
楽しくなって、由比ヶ浜旅行に行く話を、延々と書いてしまいました。
もはやタイトル『春の雪』後日談 ~テツと桂人の場合ではありませんよね💦
さて楽しいところですが……まだ梅雨空で夏休み気分ではないので、この辺りで『鎮守の森』サイドの番外編は、一旦お終いにしようと思います。続きは真夏になったら書きたいです。
『ランドマーク』の英国編は、ゆったり続ける予定です。
次は、中途半端で止めたままになっていた『まるでおとぎ話』https://estar.jp/novels/25598236 の続きを書きたいです。海里と瑠衣の父が亡くなった後、雪也の手術の話まで書かないと、なんだか繋がらなくなってきたので……。
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