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閉ざされた秘密 11
「柊一、疲れただろう。今日はここまでにしよう」
「はい! テツさんもお疲れ様でした。あの、今日はお夕食一緒に取れますか」
「悪い、今日も帰るよ」
「……そうなんですね。待っている人がいるのですから、仕方ないですね」
「待っているというかだな、その……」
冬郷家で造園の仕事を終え、門の付近で汗を拭いながら柊一と話していると、海里さんが帰宅した。
「やぁ、ただいま」
「海里さん! お帰りなさい」
ふたりが目を細め合うと、そこには甘い世界がふわりと生まれる。
さっきまで俺の弟子として汗水たらして動き回っていた柊一は影を潜め、今はただ海里さんを恋慕う一人の青年だ。相変わらず……俺が居なければ、このまま深く包容しあって接吻しそうな熱々ぶりだ。
ふたりの愛情の深さは、ますます深まるばかり。
秋が深まり、庭の木々が色付くように、満ちていく、熟れていく。
「幸せは目に見えるものだと、二人を見ているとしみじみと思いますよ。さてと俺はお邪魔ですね。もう帰りますよ」
「おいテツ、なんだよ、今日も駄目なのか。たまには夕食を取っていけよ。あれ以来いつもそそくさと帰って、つまらないぞ。お前と一緒に飲みたいのに」
柊一はどうやらお酒が苦手なようで、晩酌の相手を求められる。
「海里さん、申し訳ないです。またの機会に」
「ふん、まぁ……お前が一途な人間だと知っているから、無理強いはできないし、止められないな」
海里さんが腕を組んで、ひとり納得したように頷いている。
「あの……『一途』って何のことです?」
「おいおい、かまととぶるなよ。この純朴青年め!」
「さっきから、何を言って?」
「あの、桂人さんはお元気ですか」
「うっ……柊一まで」
「ほらな」
「えぇ」
海里さんと柊一は、どうやら俺が桂人に恋していると思っているようだ。
俺は他人に無頓着に生きて来たので、この思いを何と呼べばいいのか知らない。だからいつも聞き流している。
いつだって、思ったまま、感じたままの言葉を紡ぐだけだ。
「違うのなら……ケイトはテツにとって、どんな存在だ?」
「俺にとっての桂人は……俺だけの庭に咲く黄色い秋桜のようです」
「秋桜! わぁ~本当に特別なんですねぇ~♡」
いつの間にか大人の会話に混ざっていた、雪也くんのうっとりした声にギョッとする。
「そんなテツさんには、はい、これをどうぞ」
「なんだ?」
「兄さまがもじもじしてテツさんに渡せないので。この本は僕たちからの贈りものですよ」
「『日本の昔話・おとぎ話集』?」
「テツさんの悩みを解決するヒントになればと、選んでみました」
本なんてろくに読んだことない俺のために、こんな児童書を?
真意は掴めないが、漢字が得意でない桂人に良い勉学書になりそうだったので、ありがたく頂戴した。
桂人は、最近だいぶ俺に打ち解けてきた。
いつも食後に本を読んでやっているので、きっとこれも喜ぶだろう。
「ありがとう、じゃあ、またな」
「テツさん……あなたをとても必要としている人が、すぐ傍にいるのですね」
「僕もそう思います」
柊一と雪也くんの言葉はいつも不思議で、どこか現実離れしている。
ここが……『おとぎの世界』だからなのか。
「分かった。気にかけてみるよ」
さぁ帰ろう。桂人の待つ家に……
突っ張ってはいるが、窓の隙間からそっと、俺の帰りを待っているのを知っている。
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