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閉ざされた秘密 12
テツさんがいないと、何かが物足りない。
庭先で二人で協力する作業は、独りで過ごして来たおれにとって新鮮だった。仕事に打ち込む背中からは、テツさんがどんなに庭を愛し草花を大切に育て生きてきたのかが伝わって来た。
おれが知る下劣で無慈悲な人間たちとは……正反対だ。
だからなのか、時折手を休めてテツさんの仕事ぶりに見入ってしまった。テツさんに触れてもらう草花や樹木は、皆、幸せそうに微笑んでいるようで、目を擦ることが、何度かあった。
彼の手は不思議だ。植物の世界を優しく包み込んでいる。あの手に触れてもらえたら……気持ち良さそうだ。
「あぁ、くそっ、参ったな、こんなはずじゃなかったのに」
この森宮家の館に、おれを和ます存在があるはずないのに……テツさんは、本当に想定外だ。
「何だよ、この変な気持ち!」
突然ガサッと背後の茂みが揺れたので振り向くと、恐ろしことに……雄一郎が立っていた。ぞくりと不穏な空気が立ち込める。
「なっ、なんの用ですか……まだ約束の時ではないでしょう」
「………下見をしに来た」
「や……めろ」
突然手首を握り潰されそうな程強く掴まれ、引っ張られた。
駄目だ……おれはこの手を振り解けない。そう洗脳されている。
庭の奥、まだ誰も足を踏み入れていない場所に、引きずられるようにして連れて行かれる。まるで怪しい妖術にかかったように、抵抗出来ないのだ。
「ひっ……!」
おれが連れて行かれた場所には、薄暗い森の茂みに隠されるように配置された小さな社があった。
「こ、これは……!」
故郷でおれが閉じ込められていた社とそっくりだ。こ、ここなのか、ここで繋がっていたのか!
奥歯がガチガチと音を立て膝頭が自然とガクガクし、立っていられない程の恐怖に襲われた。
「10年前……どんなに待っても、お前はここにやって来なかったな」
「……それは」
「死んだと聞いたが……まさか生きていたとはな。私は男でも構わなかったのに、全く地主は余計なことを」
「……」
突然、雄一郎の手が……おれの作務衣の袷から中に潜り込んで来た。
「や……やめろ!!」
男の手がおれの胸板を弄ると、躰が燃えるような恥ずかしさを覚えて、奥歯を噛みしめた。
くそっ、こんな奴に……
「ふぅん……案外、平らな胸もいいな」
「は、離せっ! 儀式前に穢すと無効になるのを知っているだろう!」
「あぁ……そういえば、そうだったな。では、あとは契りの日の楽しみとしよう」
「早く……出て行け!」
雄一郎は名残惜しそうに視界から消えていった。
卑劣な奴! 親が親なら子も子だ。
おれは無我夢中で丘を駆け上った。
「テツさん、テツさん――っ」
彼の面影を求めて、彼の造った庭に駆け込んだ。
「うっ……」
まるで結界が巡らされているかのように、そこだけは空気が違った。
日なたの匂い、遮ることのない太陽の光。緑色の瑞々しい芝生に倒れ込み、嗚咽した。
こんなに泣いたのは、あれ以来……初めてかもしれない。
「テツさん……おれは怖い……これからやってくる日を迎えるのが……とても怖い……」
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