閉ざされた秘密 13

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閉ざされた秘密 13

「桂人? ……いないのか」  森宮家の裏門から、使用人棟への道を歩く。いつもならまるで俺の帰宅を待っているかのように、窓の隙間から顔を覗かせている桂人と目が合ったのに、今日はいなかった。しかも部屋の電気まで消えている。  まかさ桂人に何かあったのでは……? アイツはどこか危なっかしいから、放っておけないんだ。妙な胸騒ぎがして窓枠に手を開けると、鍵はかかっていなかった。 「桂人、寝ているのか」  ガラリと窓を開け室内の様子を伺うが、姿はなかった。  ただ……最後の夕日が、黄色い秋桜をぽっと照らしていた。  出掛けに桂人に贈った秋桜は、硝子の瓶に綺麗に揃えて活けてあった。 「ふっ、なんだ……嫌がっていたくせに、ちゃんと水をやってくれたんだな。それにしてもどこに行ったのか。まさかまだ庭にいるのか……」  もう日没で、じき真っ暗になるぞ。このだだっ広い庭は、闇夜では迷子になる。だから俺は桂人を探しに、庭に入った。 「桂人──? おーい、どこにいるんだ?」  前方に光るものがあったので近寄ってみると、桂人の花鋏が落ちていた。  俺が以前使っていたものを譲ったので、間違いない。だが、どうしてこんな場所に……ま、まさか、この先に入ったんじゃないよな。  白い紐で仕切られた結界のような場所。師匠から絶対に近づくなと忠告されていた『禁忌(きんき)の庭』に入ったりしたら大変だ。ここから先は、森宮の人間しか踏み入れてはいけない聖域だから。  ここは絶対に侵してはならない区域なのだ。俺も20年近くここに勤めているが、踏み入れたことは一度たりともない。だが桂人に何かあったら……  もしも、この先で倒れていたらどうする?  そう思うと居てもたってもいられず、白い紐の下を潜り抜けてしまった。途端にぞわっと躰が震える。すごいパワーを感じる。何か恐ろしい……気が満ちている。  「あっ……!」  鬱蒼と生い茂った森林の道。  その両脇に真っ赤な彼岸花が何十本も揺れていた。それは目を瞑りたくなる程、恐ろしい光景だった。  ここは……何かがおかしい!   いつも花姿が美しいと見惚れている彼岸花が、今日は変だ。本来の姿を失い、まるで花すらも何かに憑かれているように感じる。    この花は確か……別名『死人花(しびとばな)』『地獄花(じごくばな)』と言われる事があったような。俺は今までその言葉と結び付けたことはなかったのに……今日は……赤い花色が血のように見えてしまう始末だ。  あまりにおどろおどろしい光景に背筋が凍って引き返そうと思ったが、その道の途中で、また桂人の痕跡を見つけてしまった。  これは桂人の草履では? 何故こんな所に……片足だけ。  更に奥に進むとこんもりと樹々が茂っている場所があり、違和感を感じた。  あそこに何かを隠している!     直感でそう思い、意を決して踏み入れようとした時、背後から声がかかった。 「テツ……お前って奴は、何をしている! そこで」 「ゆ、雄一郎さん」 「ここは禁忌だ! 今すぐ出ていけ!!」  雷のような激しい怒りの声に打たれた。  なんだ? 雄一郎さんの様子も、いつもと違う。青筋を立てて、こんなに声を荒げるなんて変だ。いつもは穏やかで冷静な人なのに、何かがおかしい。  胸ぐらをつかまれ一喝された。 「も、申し訳ありません」  庭師として出過ぎたことをした。20年足を踏み入れなかった場所なんだ、ここは……  桂人の事となると、俺は我を忘れてしまう!  何かに取り憑かれたような雄一郎さんの様子が気がかりだったが、とにかく聖域から飛び出た。  それでは桂人はどこに? 中には、見た限り……いなかった。  そこでようやく……自分が朝告げた事を思い出した。 『じゃあ、頼んだぞ。そうだ、疲れたら俺の庭で休憩してもいいからな。あそこには誰も来ない』  俺は阿保だ……今頃気づくなんて。 「待っていろ、桂人! 今、迎えに行くからな」  一気に丘を駆け上がった。 ****  テツさん──、テツさん、怖い……!  おれは闇が怖い。足元から迫って来る暗闇に食われそうだ!  お願いだ。助けてくれ──  どんなに助けを呼んでも誰も来てくれなかったのに、テツさんの庭にいると、彼が来てくれるような予感に包まれてしまう。 「テツさん──」  だから、何度も叫んだ。  声が枯れそうになっても……必死に彼の名を!  
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