旅立ちと出会い 3

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旅立ちと出会い 3

 雄一郎さんを見送った後、そのまま庭仕事に没頭した。  庭の金木犀を軽く剪定していると、人が横切った。  へ? 今時……若い男が、和装なんて……  珍しいと思ったが、大して気にも留めず見送ると、暫くしてまた生垣の前に戻って来た。楚々とした和服姿の青年は、地図を片手に辺りを見回している。  ん……? もしかして道に迷ったのか。 「おい、何か探しているのか」 「あ、すみません。森宮家の屋敷を探しています」 「それは、ここだが」 「えっ、ここは公園では?」 「庭だよ。ずっと奥に屋敷がある」 「あぁ……そうなんですね」  鉄色がかった濃い紺色の着物は地味だが、スッと端正な顔立ちで、どこか色気のある男だと思った。  年は俺より若い……20代……20代後半か。落ち着いた様子から、そう判断した。しかし何者だ? 雄一郎さんの客にしては年若いし、初めて見る顔だ。 「君は屋敷の客人なのか」 「いえ……おれは……この家の庭師として雇われて来ました」 「へっ?」  おいおい、どこをどう見ても、庭仕事なんてしなさそうな青年だが。思わず……頭のてっぺんから爪先まで、凝視してしまった。   「ははっ、まさか! 何かの間違いじゃ。お前みたいなの呼んでないぞ」  俺が想像していたのは、冬郷家の柊一のように可愛らしさが残る、ハイハイと教えることに頷く、素朴で素直な子だった。 「いえ、確かに契約しました」  彼は持っていた胸元から1枚の書類を取りだし、俺の前に見せつけた。フン、気が強いな。ムッとした表情で、白い頬を上気させている。  その表情にふと懐かしさを感じたのは、何故だろう。初対面のはずなのに。 「これで文句はないでしょう」  確かに雄一郎さんと結んだ庭師としての雇用契約書で、目を凝らすと『柏木桂人(かしわぎけいと)』と書かれていた。  ん? 顔に似合わず、幼い文字だな。ふぅん、ケイトか…… 「お前が俺の弟子?」 「……そういうあなたが、おれの師匠ですか」  冷ややかな声を浴びて、俺もムッとした。  まさに、一触即発の雰囲気だった。  理想と現実が違うのは重々承知しているが、こうも予想と反すると困惑してしまうものだ。この先は、人付き合いに不慣れな俺だから、どう対応したらいいのか分からない。参ったな……。 『柏木桂人』とは神秘的な名前で、男の醸し出す冷ややかな雰囲気と合ってはいた。  この国には言霊(ことだま)という言葉があり、人の名前には、そうなって欲しい親の願いが込められている。では目の前にいる男は、どんな希望を授けられたのだろうか。俺が「鉄のように強く、熱い男であれ」と願いを込められたように、何か意味があるのだろうか。  俺にとって記念すべき最初の弟子なのに、どこまでも、ちぐはぐな出会いだった。    補足(不要な方はスルーして下さいね) **** ここまで読んで下さってありがとうございます。 連載当時より、細かい箇所を加筆しています。読み比べると、ボリュームアップしているのが分かると思います^^ まだまだ萌えの欠片もなく、ロマンチックなおとぎ話感が薄いのですが、徐々に劇的な和風お伽話になっていきます。どんどん加速して疾走していく話なんですよ。なので……根気よくお付き合いいただけたら嬉しいです。スピード感のあるお話なので、1日2-3話更新していこうと思います。全70話程度の中編になります。早速のスタンプやスター、とても励みになっています。私の創作では珍しいツンツンとしたケイトを、どうぞ、よろしくお願いします。  
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