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朝露のような希望 11
目覚めると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「あ……」
あのまま、ふたりで気を失うように眠っていたのか。
男二人で眠るには狭いベッドから落ちないように、彼の懐深くに背後から抱きしめられていた。
こんな風に人肌に包まれて穏やかに目覚めるのは、いつぶりだろう。
母の懐で最後に眠ったのはいつか。下に兄弟と小さな妹がいたので、きっと遡れば乳飲み子の記憶になるのだろう。
おれは、彼に背中を預け、勾玉のように丸まっていた。テツさんの太い幹で貫かれた部分は、まだヒリヒリと熱を持っていた。
「んっ……あっ、まさか……」
いや、違う。まだテツさんのものが中に挿入されたままじゃないか!
一気に羞恥心を煽られる。
意識をそこに集中してしまう。
あぁ駄目だ……再び疼いてきてしまう。
それにしても先ほど見た白い光は、一体何だったのか。
光は……おれの夢の中にも出て来た。白い白煙となり『鎮守の森』を漂い、深く暗い森を覆いつくそうとしていた。
あの悪しき習慣に呑まれた恐ろしい森を、白き世界へ変えようとしているのか。
****
冬郷家。
「兄さま、何をお祈りしているのですか」
「雪也……」
「今日はずっと上の空ですね。窓の外ばかり見ていますね。あの離れに何か」
あれから何時間経ったのか。僕は下校した雪也を放置して、離れの様子をずっと窓から見守っていた。
どうか、どうかあの二人が無事に結ばれますように。
海里さんから聞いた話は、とても不思議な内容だった。おどろおどろしい日本のおとぎ話はこの世の現実で、僕をも巻き込み、すぐ近くで繰り広げられていたのだ。
こうしている間も……今は物語の要となる厳かな儀式の最中だ。
純潔の生贄と純潔の生贄が深く交わった時、長年かけられていた二重の呪いが、すべて解ける。
小さな教会だった場所。秘密の庭園内の東屋で、桂人さんを発見した時、僕の中でモヤモヤとしていた謎が綺麗に解けた。
テツさんと桂人さんだった。
呪いを解くための 鍵となる人物は。
白の館、冬郷家の当主として僕の使命は、その二人を繋ぐこと、橋渡しをすること。
「雪也、今は神聖な儀式の最中なんだよ」
「え……あの、もしかして……テツさんとケイトさんの」
聡い雪也は、もう全てを悟っているようだ。
「うん、そろそろかな」
「いつからお籠りに?」
「朝からだよ」
「えぇ? だってもうお夕食の時間ですよ。そうだ、兄さま、何かお食事を運んだ方がいいんじゃないですか」
「えぇ?」
「えーっと『腹が減っては戦は出来ぬ』でしたっけ。お腹が減っていては、十分に活動出来ないでしょうし、もちろん戦うことも出来ませんよね」
「う……確かに」
雪也ってば、本当に……賢いというか、なんというか。
思わず苦笑してしまった。
「そうだね。難しい物事に取り組む時は、まず腹ごしらえをしてエネルギーを補給すべきだね」
「そうですよ。きっと長引きますよね」
「中秋の名月の月が、空に溶けるまでかな」
「じゃあ猶更です。沢山美味しいお食事を作ってお届けしましょうよ」
「わ、分かった。僕に出来ることだね。それは」
そんな会話を繰り広げていると玄関のチャイムが鳴り、すぐに雪也が窓の下を覗いて微笑んだ。
「兄さま! 海里先生のお帰りですよ。よかった! アドバイスしていただきましょうよ」
「そうだね」
ここ1週間ほど、海里さんはずっとご実家の森宮家に泊まっていた。
今日ここに帰宅した意味は……
いよいよ、海里さんが話して下さった日本のおとぎ話の頁が捲られるのか。
闇夜を照らす一筋の光。
月の光を以て、全てを正常に……
生贄となり悲しい生涯を過ごす人を救う。
そのための戦いが開幕するのか。
あとがき (不要な方はスルーで)
****
物語は最後の山場を迎えようとしています。
奇想天外な話になってしまいましたが、終着点はハッピーエンドです。
![5af931e3-c7cb-453f-af4e-558a81aed132](https://img.estar.jp/public/user_upload/5af931e3-c7cb-453f-af4e-558a81aed132.jpg?width=800&format=jpg)
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