朝露のような希望 11

1/1
前へ
/151ページ
次へ

朝露のような希望 11

    目覚めると、辺りはすっかり暗くなっていた。 「あ……」    あのまま、ふたりで気を失うように眠っていたのか。  男二人で眠るには狭いベッドから落ちないように、彼の懐深くに背後から抱きしめられていた。  こんな風に人肌に包まれて穏やかに目覚めるのは、いつぶりだろう。  母の懐で最後に眠ったのはいつか。下に兄弟と小さな妹がいたので、きっと遡れば乳飲み子の記憶になるのだろう。  おれは、彼に背中を預け、勾玉のように丸まっていた。テツさんの太い幹で貫かれた部分は、まだヒリヒリと熱を持っていた。 「んっ……あっ、まさか……」  いや、違う。まだテツさんのものが中に挿入されたままじゃないか!  一気に羞恥心を煽られる。  意識をそこに集中してしまう。  あぁ駄目だ……再び疼いてきてしまう。  それにしても先ほど見た白い光は、一体何だったのか。  光は……おれの夢の中にも出て来た。白い白煙となり『鎮守の森』を漂い、深く暗い森を覆いつくそうとしていた。  あの悪しき習慣に呑まれた恐ろしい森を、白き世界へ変えようとしているのか。 5af931e3-c7cb-453f-af4e-558a81aed132 **** 冬郷家。 「兄さま、何をお祈りしているのですか」 「雪也……」 「今日はずっと上の空ですね。窓の外ばかり見ていますね。あの離れに何か」  あれから何時間経ったのか。僕は下校した雪也を放置して、離れの様子をずっと窓から見守っていた。  どうか、どうかあの二人が無事に結ばれますように。  海里さんから聞いた話は、とても不思議な内容だった。おどろおどろしい日本のおとぎ話はこの世の現実で、僕をも巻き込み、すぐ近くで繰り広げられていたのだ。  こうしている間も……今は物語の要となる厳かな儀式の最中だ。  純潔の生贄と純潔の生贄が深く交わった時、長年かけられていた二重の呪いが、すべて解ける。    小さな教会だった場所。秘密の庭園内の東屋で、桂人さんを発見した時、僕の中でモヤモヤとしていた謎が綺麗に解けた。  テツさんと桂人さんだった。  呪いを解くための 鍵となる人物(キーパーソン)は。  白の館、冬郷家の当主として僕の使命は、その二人を繋ぐこと、橋渡しをすること。 「雪也、今は神聖な儀式の最中なんだよ」 「え……あの、もしかして……テツさんとケイトさんの」  聡い雪也は、もう全てを悟っているようだ。 「うん、そろそろかな」 「いつからお籠りに?」 「朝からだよ」 「えぇ? だってもうお夕食の時間ですよ。そうだ、兄さま、何かお食事を運んだ方がいいんじゃないですか」 「えぇ?」 「えーっと『腹が減っては戦は出来ぬ』でしたっけ。お腹が減っていては、十分に活動出来ないでしょうし、もちろん戦うことも出来ませんよね」 「う……確かに」  雪也ってば、本当に……賢いというか、なんというか。  思わず苦笑してしまった。 「そうだね。難しい物事に取り組む時は、まず腹ごしらえをしてエネルギーを補給すべきだね」 「そうですよ。きっと長引きますよね」 「中秋の名月の月が、空に溶けるまでかな」 「じゃあ猶更です。沢山美味しいお食事を作ってお届けしましょうよ」 「わ、分かった。僕に出来ることだね。それは」  そんな会話を繰り広げていると玄関のチャイムが鳴り、すぐに雪也が窓の下を覗いて微笑んだ。 「兄さま! 海里先生のお帰りですよ。よかった! アドバイスしていただきましょうよ」 「そうだね」  ここ1週間ほど、海里さんはずっとご実家の森宮家に泊まっていた。  今日ここに帰宅した意味は……  いよいよ、海里さんが話して下さった日本のおとぎ話の頁が捲られるのか。  闇夜を照らす一筋の光。  月の光を以て、全てを正常に……  生贄となり悲しい生涯を過ごす人を救う。  そのための戦いが開幕するのか。 あとがき (不要な方はスルーで) **** 物語は最後の山場を迎えようとしています。 奇想天外な話になってしまいましたが、終着点はハッピーエンドです。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1550人が本棚に入れています
本棚に追加