里帰り番外編 『楓』2

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里帰り番外編 『楓』2

この1年で、桂人は目まぐるしく変化した。  秋に俺と結ばれ、真冬を迎える頃に……桂人の体調に変化があり、一時期は感度の下がった身体を恥じて抱かれなくなった。心配で……海里さんに診てもらったが、結局それも二人で乗り越えた。  春になり草花が咲く頃になると、まるでさなぎが蝶になるようにグンと艶やかになった。  もともと月のように美しい男だったが、どこか硬質で、どこかぎこちなかった桂人が息を吹き返すと、周囲を魅了するほどの美男子だったのだ。  執事の制服もギャルソンの制服も、どれも桂人のために誂えたかのように似合っていて、すぐに話題になった。  桂人自身も、社会復帰しようと必死だったに違いない。  実際お前は本当に頑張ったよ。  1日も休むこともなく、庭師の仕事も、執事の仕事も、ティーサロンの手伝いも全力だ。 『そんなに働いて……疲れないか』 『楽しいんだ。自由に身体を動かせることが! 学べることが!』 『そうか……そうだな』  1日の仕事を終え、俺の懐に戻って来る頃には、流石の桂人も疲労困憊のようで、前のようなタフさはない。  それだけ全てのことに全力投球しているのだ。もちろん、俺との交わりにも。  先ほどまで俺の上でしなやかに身体を反らしていた桂人は、もう夢の中だ。 「……えで……」 「ん? 何か言ったか」 「か……えで」  楓? 最近……桂人はうなされたように『楓』と寝言を言う。  楓とはカエデ科カエデ属の総称で、秋に色づく葉が美しい落葉低木のことだが、桂人が夢で呼ぶ楓とは……もしかしたら人の名なのか。  桂人は過去を語らない。家族にも見捨てられた過去だから言いたくないのだろうと、あえて聞かなかったが、一度訊ねて見たい。  寝言の後に、うっすら浮かぶ涙を優しく吸い取り、桂人を懐で暖めるように抱きしめて、俺も眠る。  これが俺たちの、生活様式だ。  ****  翌日……桂人は庭師として、俺について働いてくれた。 「桂人、楓が美しく紅葉しているな」 「あ……もうこんなに」 「綺麗だな。そう言えば、柊一が教えてくれた『花言葉』を知りたいか」 「はい」 「楓の花言葉は『大切な思い出』『美しい変化』だ。緑色から黄色やオレンジ色、やがて深紅と葉の色が変化するので『美しい変化』という花言葉が生まれた由来だそうだ」    楓について教えてやると、桂人の目に、突然涙が浮かんだ。 「楓……あの子も……もう15歳だ。きっと……美しく変化しただろう……会いたい……会いたい……」 「桂人?」    真っ赤に紅葉した楓を、桂人は目を細めて見上げ、初めて俺に家族のことを話してくれた。 「テツさん……楓とは……おれの妹のことです」  
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