まるでおとぎ話シリーズ番外編『春の雪』 2

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まるでおとぎ話シリーズ番外編『春の雪』 2

「兄さま、帰ってきましたよ! 桂人さんとテツさんが、あそこに見えます!」 「本当?」  書斎で書類に目を通していると、窓辺に佇んでいた雪也が叫んだ。  よかった! 無事に戻って来てくれて嬉しい。  急いで僕も確認すると、桂人さんとテツさんの姿が見えたので、安堵した。  更に桂人さんの横には、黒髪に黄色い花をつけた女の子がいた。  あの子が、桂人さんの妹さんなのか。  僕が里帰りする彼らに託した思いを、受け取ってもらえたようだ。  手紙には、こう書いた。   『桂人さん、妹さんに無事に巡り会えましたか。これは一つの提案で、不要なことかもしれませんが……もしも妹さんが希望するのなら、我が冬郷家に連れて来て下さい。今の冬郷家なら、あなたの大切な妹を匿えます。新しい人生を送ることが出来ます』  海里さんから桂人さん達の里帰りに合わせて、森宮の分家に対して、現地で『最後の禊ぎ(みそぎ)』をすると聞いていたので、桂人さんの妹さんに何かあったら大変だと、不安が拭えなかったのだ。    勝手に名乗り上げてしまったが、役に立って良かった。   「兄さま、玄関までお迎えに行きましょう」 「あ、うん……でも……もう一人、後ろに男性がいるようだが」 「あの方は、海里先生がお話して下さった、英国のお従兄弟さんですよ。きっと!」  海里さんから、桂人さんたちの里帰りのタイミングで、英国から精霊を招いたと聞いていたが、あの方がエルフなの? そう思うとワクワクしてきた。  雪也が張り切って階段を、トントンとリズミカルに下りていく。 (そんなに走ったら駄目だよ)と言いそうになったが、雪也はもう健康になったのだ。  弟の健康そうな背中に、じわっと嬉しい気持ちが滲み出た。 (ゆき……手術、成功して良かったね。経過も良好で……本当に良かった)    さぁ出迎えよう! 僕らにとって、彼らはもう家族だ。  だから……とても大切な人達の帰宅だ。 「お帰りなさい!」  勢いよく扉を開くと、テツさんが立っていた。 「テツさん! ご無事で何よりです」 「柊一、ただいま! 君の言葉に甘えてしまったが、良かったのか、本当に?」 「もちろんです。ぜひ! さぁ、桂人さんの妹さんを紹介して下さい」 「あぁ、桂人、紹介を」 「う、うん」  テツさんが横にずれると、桂人さんの顔が見えた。  更に凜々しく美しくなった顔に、見惚れてしまう。 「桂人さん! お帰りさない」 「あ……あぁ……た……だいま」  桂人さんはツンと澄ました顔でぶっきらぼうに言い放ったが、目元を染めて恥ずかしそうにしていた。すると隣で、くすくすっと笑い声がした。 「にーたま、春子にも早く、王子様を紹介して下さいな」 「あ、あぁ……あの、柊一さん、おれの妹の……春子です。本当にここでお世話になっても?」 「もちろんです。あぁ、桂人さんに面影が似ていますね」 「春子です。兄が大変お世話になっています」 「は……春子……」  桂人さんが、たじたじなのが分かる。  溌剌として物怖じしない、爽やかな妹さんだ。 「春子さん、はじめまして。僕が冬郷家の当主、冬郷柊一です。そしてこちらが僕の弟の雪也です」  いつもなら、自分から挨拶をする雪也が押し黙っているので、怪訝に思った。 「雪也? 挨拶は」 「あ……すみません。あの、冬郷雪也です。春子さんは何歳ですか」 「私? ちょうど16歳になったばかりよ」 「わ、僕と歳が近いですね」 「そうなのね。良かったわ~なんだか大人の男性ばかりだと思っていたけど、あなたみたいな人がいるなんて心強いわ! 春子と仲良くして下さい! どうぞよろしくね」    春子さんが雪也の手を掴んでギュッと握ると、雪也の顔も桂人さんみたいに赤くなった。  今はまだ季節は冬に向かう所だが、一足先に、春がやってきたようだった。  
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