まるでおとぎ話シリーズ番外編『春の雪』 3

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まるでおとぎ話シリーズ番外編『春の雪』 3

「へぇ~君がシュウイチか」 「あ……あの海里さんから話は聞いています。ユーリさんですよね」 「そう! あぁ……長旅で疲れたよ。暫く休ませてもらうよ」    見上げる程の大男。確かに海里さんの言った通り、彼がお面を被ったら、天狗そのもので、村人はさずかし驚いただろう。 「もちろんです。ゆっくりしていって下さい。とにかく、中へどうぞ」    海里さんはまだ勤務中だ。彼がいない今、僕はこの家の当主だし、しっかり応対しないと。  それにしても、桂人さんの妹さんの部屋はどうしよう? 離れは桂人さんとテツさんの愛の住み処で、本館も男所帯だし、僕は圧倒的に女の子に不慣れだ。  そうだ! 雪也なら世慣れしているから、良い案が浮かぶかも。 「ねぇ雪也、春子さんのお部屋は、どうしたらいいと思う?」 「……」    ところが、雪也はいつもと調子が違って、まだ頬を赤らめたまま押し黙っている。どこか上の空だ。あ……もしかして雪也も、案外、女の子に慣れていないのかな。    小学校は共学だったが病気がちであまり通えなかったし、中学からは男子部と女子部に別れていたから仕方が無いよね。そんな所まで、僕に似てしまったのかな。 「雪也? どうしたの?」 「え……兄さま……あ、あの何か」 「……いや、お客様を居間に通してくれるかな」 「はい」  「僕は、白江さんを呼んでくるよ」  玄関に向かうと、ちょうど呼び鈴が鳴って、白江さんがやってきた。 「白江さん!」 「うふふ。さっき柊一さんのお家に、いわくありげな一団がゾロゾロと人が入って行くのが、見えたのよ」  彼女は双子の小さな女の子を連れていた。 「あぁ……良かった! 実はとても困っていたんだ」 「でしょう。一団の中に可憐な女の子の姿が見えたのよ。でも、ここは男所帯だし、あなたが女の子に免疫がなさ過ぎるから、困っているんじゃないかと」 「う……返す言葉がないよ。ぜひ相談にのって欲しい」 「任せて! 私は姉妹の母だし、女の子の気持ちになら慣れているわ」  協力な助っ人が来たので、ホッとした。  **** 「にーたま、本当にこんなお城みたいな家に住んでいるの?」 「あー疲れた。オレはちょっと休ませてもらうぜ」    春子は通された居間をキョロキョロ見渡して、口をポカンと開けていた。一方、ユーリさんは、まるで我が家のように寛いで、長椅子に横たわり、そのままグーグーと寝てしまった。   さっきから物怖じしない人だ。流石……天狗だ。きっと、おれたちを救うために、かなりの力を使ったのだろう。少し休んで欲しい。   「にーたまのお部屋は、どこ?」 「……おれは、あそこに建っている離れに住んでいる」  窓から見える蔦の絡まる煉瓦造りの塔を指さすと、春子に素朴な質問をされて、たじろいだ。   「あんな場所に、ひとりで?」 「え……」  参ったな。    テツさん、おれはどう答えたらいいのか分からない。  男同士で愛し合っているのは、正直……まだ妹に話しにくい。ただでさえ、親兄弟を捨て、おれに付いて来てくれたのだ。あまり一度に驚かせたくないし、もしも理解してもらえなかったらと……不安になるのだ。  テツさん……おれは、どうしたらいい?  縋るように見つめるが、テツさんもおれを縋るように見つめ返すだけだ。  参ったな……お互い世間に疎く、本気で分からないのだ。  ようやく……テツさんが重い口を開く。   「春子さん……離れは使用人棟にしてもらったので、俺も一緒に住んでいますよ」 「テツさんも? あぁ学生寮みたいに?」 「……学生寮? まぁ……そ、うですね」  テツさんが苦笑している。それもそのはずだ。  離れでは、おれとテツさんは同室で、一つのベッドで眠っている。  ただ眠るだけではない。夜な夜な裸で抱き合っているのだから。  おれはテツさんが欲しくなるし、テツさんもおれが欲しくなる。  おれたちは媚薬のように求め合う関係なのだ。  とは、春子に言えない。   「春子は、どうしたらいいのかな。くっついて来ちゃったけど、ここに仕事はあるのかな?」 「心配するな。柊一さんに聞いてみるから」 「にーたま、春子がついてきたの、もしかして迷惑だった?」 「そんなはずない! なんでそんなこと……」 「だって、さっきから困った顔ばかり」 「こ、これはっ」  参ったな。久しぶりに会った妹は、もう5歳の幼女ではなく、田舎では結婚目前だったせいか、すっかり女性らしくなっていた……それで、変に意識してしまうのだ。  この冬郷家には男しかいないし、もちろん皆さん信頼している人たちばかりだが、本当に大丈夫だろうか。 「桂人、とにかく……まずは柊一さんに相談してみよう」   テツさんも朴訥とした人柄で、知恵が回る人ではないので、心底困った顔をしていた。 こんな時おれたちが頼れるのは、柊一さんと海里さんだ。  ふたりの知恵が合わされば、きっと良い解決策が浮かぶだろう!
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